全国的に空き家が増えている今、実家から離れて暮らしている方にとって、将来空き家を相続したときのことを考えておいたほうがいいかもしれません。
もし、「自分が空き家を相続することになった」もしくは、「将来的に空き家を相続することになる」といった場合、どのような対応をすればよいのでしょうか?
実家は、自分が幼少の頃育った家だったり、両親が大事にしていた家だったりする事が多いため、思い入れが深く処分などしにくいこともあろうかと思います。
しかし、住む予定のない空き家をそのまま放置していると、様々な問題が生じることがあります。
今回は、空き家を相続したもしくは相続する予定のある方に、知っておいてほしいリスクや注意点、その対処方法を詳しく解説していきます。
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目次
まず、法律上空き家とはどのような家屋のことをさすのでしょうか。
平成27年に施行された、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家法」といいます)の第2条1項では、空き家とは「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。」と規定されています。
つまり、使っていない建物ということですね。
空き家は現在増加傾向で、平成30年住宅・土地統計調査によれば、空き家の総数は848万9千戸、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は 13.6%と過去最高を記録しています
また、空き家法上、空き家には「特定空家等」という分類もあります。
これは「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。」(空家法第2条2項)と定められているものです。
つまり、放置していると危険があると国に判断された建物ということです。
これに該当した場合に生じる不利益については、後述します。
住む予定のない空き家をそのまま放置してしまうと、次のようなデメリットがあります。
誰も住んでいない家も経年劣化していきます。維持費や定期的なメンテナンスが必要となるなど、ランニングコストが発生します。
一方で、きちんと手入れをしていない場合は動物、害虫が住み着いたり、犯罪の温床になることが考えられるため近隣住民の心象が悪く、近隣トラブルになりやすいので、油断は禁物です。
居住していなかったとしても、相続人は毎年の家屋の固定資産税を負担しなければなりません。
また、住宅用地の場合、通常、固定資産税の支払額を3分の1または6分の1とする軽減措置を受けられます。しかし、劣化した空き家を放置し続け、上述した「特定空き家」に指定されてしまった場合、固定資産税の軽減措置対象から除外されてしまいます。この場合、固定資産税の支払額は最大でそれまでの6倍になってしまう可能性があります。
空き家でも火災等のリスクは変わらずあるため、火災保険には加入しておくことが望ましいです。しかし、火災保険は建物の用途によって分かれており、人が居住していたときの火災保険をそのまま引き継ぐことはできません。住宅用火災保険に比べ、保険料が増額される可能性が高いといえます。
上述した空家法により、放置されている空き家が周辺に悪影響を及ぼすと判断された場合に空き家を強制撤去することが容易になりました。
行政代執行により空き家が取り壊された場合、費用を請求される可能性があります。また、この費用の滞納は国税の滞納と同じ取り扱いになると考えられます(行政代執行法第6条1項)。したがって、取り立てが厳しいと考えられます。
空き家となった時点で、既に相当程度の築年数が経過している場合が多いと考えられますが、時間の経過とともに建物は更に劣化していきますので、資産価値の下落は避けられません。
また、不動産を売却する場合の買い主は、通常融資を利用して購入します。
たとえ取り壊しを予定していたとしても、建物の状態によっては物件自体の魅力度が低下していたり、潜在的な法的リスクがあると考えた場合、金融機関が融資を制限する可能性があります。
そうなると、放置する前と比較して売却が難しくなる可能性があります。
以上のように、空き家を相続してそのままにしておいた場合、様々な問題が発生することがおわかりいただけたかと思います。
では、相続した空き家の活用方法としてはどのようなものが考えられるでしょうか。
空き家を活用する前に、まずは空き家の資産価値を確認する必要があります。資産価値の有無で空き家をどのように利用するべきかが変わってくるからです。
空き家の資産価値を判断するには、自己判断せずに、不動産鑑定士や不動産業者などの不動産に関する専門知識を持ったプロフェッショナルに査定を依頼することでより正確に算定できます。
これらの専門家は、土地や建物の評価、市場トレンドの分析、不動産取引実績などについて深い知識や経験を持ち、不動産の資産価値を正確に評価することができます。
空き家に資産価値がある場合、取りうる対応としては以下のものが考えられます。
① 売却する
② 人に貸す
③ 居住する
空き家を売却する最大のメリットは、空き家を現金化できることです。上述したように、空き家を保有し続けても資産価値が減少していく一方であることを考えると、最も資産価値の高い時点での売却が合理的であるともいえます。
また、売却すれば、ランニングコストや固定資産税の負担も発生しなくなります。
なお、売却時には、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」により、譲渡所得(売却益)から最大3000万円までを控除することができます。
ただし、空き家の相続登記をして不動産の名義を変えなければ、売却することができません。
物件によっては、長い間相続登記をしておらず、登記上は何代も前の方の名義になっていることもあります。また、遺産分割の仕方によっては売却の際の手続きが煩雑になってしまうこともあります。
これは時間経過とともにより複雑になっていきますので、やはり早めに検討することが大切です。
さらに、所有者さんが介護施設に入居したので空き家になったという場合もあります。
このような場合の多くは、所有者さんが高齢であり、売却しようと思ったときには、認知症などの判断能力の低下によって売却できないということもあります。
このようなケースでは、家族信託などで生前対策をしておくことが最も効果的です。
参考記事:家族信託とは?
生前対策をする場合でも、相続手続きをする場合でも専門家である司法書士にご相談することをおすすめします。
空き家を賃貸用物件として貸し出す場合のメリットは、毎月の家賃収入を得られることです。
一方、デメリットとしては、貸し出せる状態にするためのリフォーム等により費用が発生することです。また、トラブルが生じた際には、貸主としての責任も発生します。
また、上述した「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」では「相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと」が要件とされていますので、貸し出していた場合は、その後売却するとしても控除は受けられなくなります。
売却が難しい物件である場合や、思い出深い家屋を手放したくない場合は、ご自身の居住用建物またはセカンドハウスとして利用すれば、「特定空き家」に指定されることを防げますので、固定資産税の住宅用地の特例が適用され続けます。
ただし、セカンドハウスとして利用する場合は、家屋のある自治体の認定を受ける必要がありますので、事前に自治体に確認をすることをおすすめします。
また、貸し出す場合と同様、譲渡所得の控除は受けられなくなります。
残念ながら空き家に資産価値がない場合は、取りうる対応としては以下のものが考えられます。
① 相続放棄する
② 寄付する
③ 相続土地国庫帰属法の適用を受ける(令和5年4月27日以降)
相続放棄とは、被相続人の相続財産を相続する権利の一切を放棄することにより、相続人とみなされなくなることをいいます。
相続放棄をして空き家を手放すことで、ランニングコストや固定資産税の負担を免れる事ができます。
ただし、相続放棄をした場合は、空き家以外の不動産や預貯金等の財産の相続もできなくなるというデメリットがあります。
そして、相続放棄の手続きは、ご自身が相続人になったことを知った時から3か月以内にしなければならないという点で期間の制約があります(民法915条)。
また、相続放棄の結果、空き家について相続する方がいなくなり、空き家が国庫に帰属することになった場合、相続財産管理人が管理を開始するまで管理義務が発生します。
相続放棄が認められても、すぐに空き家の管理などをしなくていいようになるわけではない点にご注意ください。
相続放棄についてはこちらの記事でも解説しています。
相続放棄の手続きの流れや注意点!知っておけば安心のポイントを解説
土地の売却が見込めない場合などに寄付をする選択肢も考えられます。
寄付先としては、自治体・個人・法人が考えられます。
国や地方公共団体などに寄付した財産は相続税の非課税財産に該当します。
また、非営利団体や慈善団体に空き家を寄付することによって、その団体が運営するプログラムやプロジェクトを支援することができる場合があります。
ただし、自治体は使用目的なく寄付を受けない場合があるので注意が必要です。一部の自治体では、一定の条件を満たすことで無償で寄付を受け付けていますので、自治体に事前に確認しておくと良いでしょう。
個人や法人に寄付する場合は、みなし譲渡として寄付者に譲渡所得税がかかります(自治体に寄付する場合はかかりません)。また、一定の金額を超えた場合に寄付を受けた側に贈与税が発生する場合があるため、注意が必要です。
寄付ができないことも多いため、そのような場合は有料で不動産業者等に引き取ってもらう場合もあります。
相続土地国庫帰属制度は令和5年4月27日から開始される制度で、土地を相続したものの土地を手放したいと考える人が増えた現在の状況を踏まえて、所有者不明土地の発生を予防するために創設された新たな制度です。
その内容としては、相続などによって土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けてその土地の所有権を手放し、国庫に帰属させる手続きとなります。
法務大臣は、承認申請された土地が、通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかからないと判断したとき、承認します。
他の相続財産を相続しつつ、いらない家屋は手放せる点でメリットがある制度ですが、注意点もあります。
例えば、建物が立っている土地は要件を満たさないため、まず空き家を取り壊し更地にする必要があります。また、この制度の利用をするにあたっては、負担金を納める必要があります。
住宅需要の低下は、将来的にもっと深刻化する可能性が高いと考えられます。
そのため、すでに相続したものの使い道がない空き家を所有している人は、できるだけ早く売却や活用を検討するのが良いでしょう。
また、所有者さんが介護施設に入居する予定があり、いずれは売却する可能性があるという場合も、家族信託などの生前対策をしておくことが得策です。
私たちは、空き家の相続手続きはもちろんのこと、家族信託や遺言などの生前対策、任意後見・贈与・保険など、様々な手法を総合的にご提案して皆様のご不安を解消いたしております。
お困りの際はいつでもご相談くださいませ。Youtubeやメールマガジンでも有益な情報を発信しておりますので、そちらも併せて登録等よろしくお願いいたします。
それでは、また別の記事でお会いしましょう。最後までご覧いただき、ありがとうございました。