2023.04.26

相続人が海外在住!遺産分割の手続きはどうすればいい?

日本人の海外流出が徐々に進んでいます。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、2022年には日本人の海外への永住者は約55万7千人になり、過去最大を記録しました。

海外在留邦人数調査統計」をもとに作成

新型コロナの影響で留学や海外駐在などの長期滞在者は減少している一方で、より良い生活環境や働き方を海外に求める人が増えた結果、永住者の数は前年比で約2万人の増加となっています。

このような背景から、ご自身が海外在住中に相続が発生してしまうケースや、一部の相続人が海外に住んでいるというケースは、決して珍しいケースとは言えなくなってきています。

では、そんな時の相続手続きはどのように進めればよいのでしょうか?

この記事を読んでおけば、海外在住の相続人がいても手続きに迷うことがなくなります。

相続手続きの原則

まずは相続手続きをするうえでの原則について少しお話します。

「相続人全員の関与がなければ、手続きを進められない」というようなことをお聞きになったことのある方は多いかと思います。

もちろん例外もありますが、故人が遺言などを残されていない場合、原則は相続人全員によって遺産分割協議をする必要があります。

この遺産分割協議において、相続財産をどのように分けるかを話し合いますが、決定には相続人全員の合意が必要となるのです。

もし一人でも合意しなければ、協議はまとまらず、最悪の場合、裁判所が関与する調停手続きに移行せざるを得なくなる可能性もあります。

例えば、不動産の名義を変えたい場合に、法律に基づいた相続人全員の共有関係でなく、誰か一人に名義をまとめるような場合は、その内容で相続人全員が合意をしたということを遺産分割協議書として法務局へ提出する必要があるのです。

なお、遺産分割協議自体は対面に限らず電話やメールなどで行うことも可能ですが、遺産分割協議書には相続人全員の署名と捺印が必要となります。

海外在住の相続人がいる場合は?

上記の原則は、相続人の中に海外在住の方がいても変わりません。

海外在住で遠方だからといって協議に参加しなくていいわけではありませんし、遺産分割協議書を作成する際の署名捺印も免除はされません。

また、日本国内で戸籍等の必要となる書類も揃える必要があるのも、日本在住の方と同様です。

むしろ、海外在住の相続人には特有の書類が必要であり、現地の在外公館に出向むく必要があるので、手続きは煩雑になります。

また、「親の介護が必要な時に日本にいなかった」などの理由で、遺産分割協議がまとまりにくいという性質も持っています。

ですので、海外在住の相続人がいる家庭では、こうした問題を回避するために早めに遺言書を用意しておくことが効果的です。

関連記事:遺言を書きたい方必見!簡単に書ける自筆証書遺言の書き方を解説

海外在住の相続人がいる場合の注意点

では、実際に海外在住の相続人の方がいる場合の手続きでは、どういったことに気をつければ良いのでしょうか。

注意すべきポイントとしては、次の3点が挙げられます。

①必要となる書類の一部が日本在住の方とは異なる点

②相続税申告も日本在住の方と同様、期限内の申告が必要となる点

③海外送金の可否や手数料に注意する

詳細を確認していきましょう。

海外在住特有の必要書類について

1つ目の注意すべきポイントは、相続の手続きにおいて、海外在住者特有の必要書類がある点です。

上記に記載した遺産分割協議書もそうですが、日本の相続登記においては、相続人の署名捺印が必要となる書類があります。

これには実印と印鑑証明書が必要となるわけですが、海外在住の方には実印及び印鑑証明書というものがありません。

日本に住所登録していない方は日本での実印登録ができないため、印鑑証明書も発行できないのです。

また、当然日本の住民票もありません。(※なお、海外在住の方でも、日本に住民票登録を残しており、海外へ住所移転していないような場合は、日本で住民票や印鑑証明書を取得することは可能です)

そのため、これらの代わりとするために次のような書類が必要となります。

サイン証明(署名証明書)

日本での印鑑証明書に代わる書類として使用できるのが、このサイン証明(署名証明書)です。

海外在住の方が、本人の署名及び拇印であることを証明するものとして、現地の日本領事館等で発行してもらいます。

サイン証明(署名証明書)とは、「日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するもの」(外務省HPより)であり、申請者本人が在留地の日本領事館等の「公館」に出向いて、申請しなければならないとされています。

お住まいの住所地の近くに公館があれば良いのですが、もし近くになければわざわざ公館まで出向く必要があります。また、場合によっては事前の予約が必要となる公館もあります。

余裕を持ったスケジュールで準備されることをお勧めいたします。

また、もし日本に一時帰国される予定などがあれば、日本での取得も可能です。

日本の公証役場に本人確認資料としてパスポートや「海外の住所が分かる書類」を持参し、公証人の面前で分割協議書や委任状に署名することで、それらの書類に本人が自筆で署名したというサイン証明(署名証明書)を作成することができます。

ちなみに上記に記載した公証役場に持参する「海外の住所が分かる書類」というのが、次で説明します「在留証明書」にあたります。

そのため、もしサイン証明を日本で取得することを考えるのであれば、帰国前に海外の居住地における領事館にて先に「在留証明書」を取得しておくのがスムーズです。

在留証明書

相続財産として不動産名義を取得する場合などは住民票も必要となります。

海外在住の方の場合、こちらも住民票の代わりとして在留証明書の発行が必要です。

在留証明書の発行には要件があり、以下のとおりです。

①日本国籍を有している

②現地ですでに3ヶ月以上滞在し、かつ現在も居住している

発行を受けるときは、パスポートの他、賃貸借契約書や公共料金の請求書など滞在期間と居住地がわかるものを持参します。

領事館によっては永住ビザや現地の運転免許証(ドライバーズライセンス)でも受け付けてくれますが、事前に確認するのが確実でしょう。

細かい手数料や申請方法などの詳細は、実際に証明を受けようとする在外公館に直接お問い合わせください。

相続税の申告

もう1点、注意すべき点として挙げられるのが、相続税の申告期限です。

日本の被相続人から遺産を受け取った場合、海外に在住している相続人についても日本の相続税が課されるため、相続税申告が必要となります。

被相続人が保有していた財産であれば、原則日本国内の財産に限らず、海外にある財産についても課税対象となります。

(※ただし、被相続人と相続人の双方が10年以上海外に在住している場合は、海外にある財産は課税対象とはなりません。)

そして、相続税の申告には期限があります。

原則、相続発生から10ヶ月以内の申告が必要です。

10ヶ月という数字だけ見ればある程度期間に余裕があると感じる方も多いかもしれませんが、実際にご家族が亡くなられてからの手続きは財産に関するものが全てではありません。

ましてや、海外にいる方の関与も必要となりますと、お話し合いの機会だけを考えても日数が限られる可能性がございます。

また、書類のやり取りについても国際郵便などを使用するため、国によってはかなりの時間を要する場合もございます。

私たちの担当した事例でも、コロナ禍では1度のやり取りに1ヶ月以上を要することもありました。

申告期限を過ぎてしまうとペナルティーもありますので、できる限り日程に余裕を持って全体の見通しを立てることをお勧めいたします。

海外送金や為替レートの変動に注意する

海外在住の相続人が日本の銀行口座をお持ちでない場合、海外送金が必要になる場合があります。

その際には、海外送金の可否や送金手数料、為替レートの変動にも注意が必要です。

海外送金の可否や送金手数料については、銀行によって異なります。

手続きの前に、必ず手続きや手数料について調べておくことが大切です。

また、為替レートの変動によっても、送金金額が変わることがありますので、レートが有利なタイミングで送金することができるように、時間的な余裕を持って手続きを進めましょう。

もし、相続人が日本国籍を喪失していたら?

ここまでは日本国籍を有しており、かつ、海外在住の方が相続人にいる場合を前提としておりました。

では、相続人がすでに日本国籍を有していない場合はどうでしょうか。

最近では国際結婚や帰化により、日本国籍から国籍を変えることも珍しくありません。

日本の民法上、相続人となる場合に国籍は問われませんので、外国籍であっても相続人として手続きへの関与が必要となるわけです。

なお、外国籍の場合、上記に記載しました日本大使館等で取得できるサイン証明や在留証明書を取得することはできませんので、注意が必要です。

この場合は別途、大使館等で宣誓供述書を取得することとなります。

この場合、どういった内容とすべきかは、各手続きにより異なる部分があるため、事前に専門家へ相談するのがスムーズかつ、確実でしょう。

まとめ

海外在住の方も相続人であれば、日本にいる方と同じように手続きへの関与が必要

海外在住の方は日本での住民票や印鑑証明書に代わる書類を準備する必要がある

相続税の申告も必要となるので、申告期限には注意が必要

海外送金の可否や為替レートの変動に注意する

日本国籍を喪失している場合は、必要となる書類も異なるのでご注意を!

海外在住の相続人がいらっしゃるご家庭では、【遺産分割協議で揉めやすい】【手続きが煩雑になりやすい】という性質がありますので、できるだけ早く遺言書などの相続対策を検討しておくことを強くおすすめいたします。

また、手続きが発生してから

「必要な書類の手配などどのように進めればいいのだろう」

「果たして申告期限に間に合うか不安…」

などのお悩みでしたら、ぜひ我々専門家へご相談ください。

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