大切な人を失った悲しみと喪失感の中では、なかなか相続手続きのことまで考えている余裕はないと思います。
しかし、相続税の申告期限(10ヶ月)や相続登記の手続き(2024年に相続登記義務化)の期限を考えると、あまりゆっくりしていられません。
その際、遺言書がある場合や、相続人になる方々が亡くなった方(被相続人)の財産をすべて把握できている場合は問題ありませんが、どこにどのような財産があるかわからない場合は途方に暮れてしまうでしょう。
そんな遺産相続において重要な役割を果たすのが「相続財産調査」です。この手続きは、スムーズな遺産相続のために欠かせないものであり、正確な情報と適切な手法を用いることが不可欠です。
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目次
相続財産調査とは、遺産分割協議の前提として、誰が相続人となるか、どのような相続財産があるかを調査することをいいます。
このとき、預貯金等のプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含めて確定させなければなりません。
最近では、デジタル遺産などという言葉も出てきています。
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誰が相続人となるかは戸籍等をたどっていけば判明しますが、相続財産としてどのようなものがあるかについては、様々な可能性を考慮しつつしっかりと調査をする必要があります。
遺産相続において、相続財産調査は非常に重要なステップです。なぜなら、相続財産調査によって作成される財産目録は、遺産分割や手続きの前提となる情報だからです。正確で包括的な相続財産調査が行われることで、以下3つの効果が得られることになります。
相続が発生した際に取りうる手段としては、すべての財産を相続する「単純承認」、すべての財産を放棄する「相続放棄」、プラスの財産とマイナスの財産を相殺して、差し引きでプラス財産があった場合に相続する「限定承認」の三つがあります。
どの手段をとるか判断するためにも、プラスの財産もマイナスの財産も正確に把握する必要があります。
遺言など遺産の分割の方法を定めたものがない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がありますが、遺産分割協議のあとにそれまで把握していなかった財産が出てきた場合、トラブルに繋がる可能性もあります。
したがって、被相続人の財産を正確に把握できていない場合、まずは相続財産調査をして、遺産を正確に把握することが非常に重要です。
相続税申告においては、相続財産の正確な評価が求められます。遺産の資産価値を正確に把握するためには、相続財産調査が不可欠です。不動産、金融資産、負債など、相続財産の全体像を明確に把握することで、相続税の課税があるか否か、ある場合にはその納税額が明確になります。
また、相続財産調査によって、相続税申告における適切な節税手法を見つけることができます。相続財産の評価や負債の整理などの手続きを適切に行うことで、不要な相続税の支払いを避けることができます。節税手法を活用することで、遺産を効果的に保全し、将来の利益を最大化することも可能です。
上記の「相続放棄」や「限定承認」には期限があります。これらの手続きは原則として相続人になったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
そのため調査の結果マイナスの財産が多いことが判明しても、上記の期限を過ぎてしまい、その手続きを利用することができなくなるおそれがあります。
また、マイナスの財産がなかったとしても、相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に行う必要があり、相続税の申告の要否の判断のためにも相続財産は確定させておく必要があります。
したがって、相続財産調査は余裕を持って開始しておくことをおすすめします。
相続財産調査を始めるにあたり、まずはご自宅やご実家等に、被相続人の財産が分かる資料がないかをご確認ください。
その上で、銀行等の各機関に問い合わせをする際に必要となる以下の資料を用意する必要があります。
①被相続人の出生から死亡までのすべての期間の戸籍謄本、除籍謄本
②被相続人の住民票の除票
③相続人の戸籍謄本
④相続人の印鑑証明書
⑤相続人の身分証明書
特に、戸籍については、複数のものを取得する必要がある場合がほとんですし、金融機関等に提出した場合、返却されるまで長い時間を要することが多いため、複数の金融機関に提出する必要がある場合などは、特に手続きが大変になります。
しかし上で挙げた書類を法務局に提出して法定相続情報一覧図を作成してもらうと、戸籍等一式の提出に代えて法定相続情報一覧図を提出することでも手続きを進めることができ、大変便利です。
司法書士等の専門家に依頼することによって、法定相続情報一覧図の代理取得ができますので、是非ご検討ください。
相続財産の調査方法は、財産の種類によって異なります。
代表的な財産について、一般的な調査方法をご説明いたします。
まず、被相続人が利用していた金融機関を特定するところから始める必要があります。
通帳・キャッシュカード・金融機関からの郵便物がある場合は、調査対象とすべきです。
以前は同じ金融機関の複数の支店で比較的自由に口座を作ることができたため、ある支店の通帳が見つかった場合も、その支店以外でも口座を保有している可能性を考慮したほうが良いでしょう。
また近年ではWeb通帳やネット銀行等、紙の通帳が使用されていないケースも増えていますし、スマートフォンのアプリで複数の口座を一括管理する方もいらっしゃいます。
可能であれば亡くなられた方のスマートフォンやパソコンにログインして、預金に関する情報がないか確認すると良いでしょう。
もし、通帳やキャッシュカードが見当たらない場合でも、問い合わせに応じて口座の有無を教えてくれる金融機関もあるため、思い当たる金融機関がある場合は問い合わせてみると良いでしょう。
金融機関を特定したあとは、残高証明書の発行を請求しましょう。郵送での請求も可能なのが一般的です。
残高証明書の発行は、相続人全員で請求する必要はなく、相続人のうちの一人からでも請求できます。
このとき、戸籍等の書類の提出を求められますが、どのような書類を求められるかは金融機関ごとに異なりますので、事前に手続きをする金融機関に確認しておくと良いでしょう。
金融機関が特定できたら、通帳への記帳や取引履歴の開示の請求もしておいたほうが良いでしょう。取引履歴から他の相続財産が判明することは珍しいことではありません。
証券会社や信託銀行からの取引残高報告書や、株式を保有している会社からの株主総会の通知などの郵便物がないかご確認ください。
ネット証券会社で取引を行い、電子による書類の交付を受けていた場合、これらの郵便物が届かない場合があるため注意が必要です。
もし株式等にかかる口座の開設先が分からない場合でも、証券保管振替機構に対して、有料で登録済加入者情報の開示請求を行うことが可能です。この請求は郵送で行います。
まず、不動産についての権利証や登記識別情報通知がないかご確認ください。
不動産を所有している場合、固定資産税の納税通知書が送られてくるのが通常ですから、それを確認することによっても所有している不動産を知ることができます。
ただし、不動産を所有していても納付すべき税額が発生しない場合には、納税通知書は送られてきませんので注意が必要です。
また、不動産を共有している場合、納税通知書は代表者一人に送付されることが通常ですから、納税通知書が見当たらないからといって必ずしも不動産を所有していないといえるわけではないことにも注意が必要です。
このような場合には、名寄帳の記載を確認することが必要となります。名寄帳は固定資産税の有無にかかわらず、所有不動産を一覧にしたものです。
ただし、名寄帳は不動産の存在する市区町村ごとに作成され、各市町村・都税事務所に請求する必要がありますので、ある程度不動産を所有する場所を絞り込んでから請求することになります。
貴金属や美術品も相続財産となります。手元に現物がある場合のほか、貸金庫等に入っている場合もあります。貸金庫等の利用がうかがえる場合や、預貯金の調査の際に貸金庫の利用料金の引き落としの履歴などがあった場合には、調査漏れがないよう気をつける必要があります。
換金価値のある動産が見つかった場合はリスト化し、専門の業者に鑑定を依頼するなどして価格を調査しましょう。
先にご説明した通り、借金・債務等の負債についても調査の対象となります。借用書や借入残高の分かる書類がないか確認しましょう。
また、ローンや奨学金も対象となりますから、残高を確認する必要があります。
預貯金の調査の際に、借り入れや弁済の履歴が見つかる場合もありますので注意しましょう。
借入先が全くわからない場合でも、信用情報機関に信用情報の開示請求を行うことが可能です。
全国銀行個人信用情報センター、株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)に対し必要書類を提出することで、有料で借入先等を問い合わせることが可能です。この手続きは郵送でも可能です。
ただし、個人など金融機関以外からの借り入れについては、信用情報機関にも情報が登録されないため、残された書類を調査するなどして確認しなければなりません。
被相続人が債務者となっている場合のほか、保証人となっている場合も保証債務が相続財産となる場合があります。この場合も残された書類を注意深く調査することをおすすめします。
その結果、万が一債務超過であった場合には相続放棄を検討する必要があります。
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正確な相続財産調査を行うことで、遺産分割や手続きの基礎となる情報を提供し、公平な遺産分割がスムーズに行うことができます。
相続財産調査は時間をかければ相続人自ら行うことも可能ですが、司法書士等の専門家に依頼することも可能です。
専門家に依頼することで、相続財産の調査や、その後の遺産分割協議書の作成などを手放すことができ、ストレスなく相続手続きを進めていくことが可能です。