2023.07.24

行方不明の相続人がいる場合の相続手続きと失踪宣告のポイント

「相続人の中に行方不明の人がいて、手続きが進められずに困っている」こんな事を聞いても、本やドラマの中だけの話だと思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、実際にこういった相談は少なくありません。

警察庁によりますと、令和3年における行方不明者数(警察に行方不明者届が出された人の数)は79,218人であり、8万人近くに上ります。

また、内訳としては20代が割合的に1番多いものの(15,714人)、特定の年齢層に限らず届け出がされている状況です。

引用:令和3年における行方不明者の状況 – 警察庁

そして相続の手続きは原則相続人全員の関与が必要となります。

では、相続人の中に行方不明者がいる場合の相続手続きはどのように進めればよいのでしょうか?

一つの選択肢となるのが「失踪宣告」という制度です。

どのような制度なのか詳しく見ていきましょう。

失踪宣告とは

失踪宣告とはどういった制度なのでしょうか。

行方不明者であっても、その人の財産は当然その人のものであり、身近な親族であっても本人以外の方が財産を管理・処分することなどに原則介入することはできません。

同様に行方不明者が相続人の場合、相続人としての権利を他者が勝手に行使する訳にはいかないのです。

そこで民法では、行方不明者の生死が不明で、帰ってくる蓋然性が低ければ、その人は死亡したものとみなせることとしました。これが「失踪宣告」です。

失踪宣告が認められると、行方不明者は法律上死亡したものとみなされます。行方不明者が死亡したことになれば、その人の権利は次の世代に承継されるため、行方不明者に代わって手続きを進められるようになるわけです。

上記の通り、行方不明者の財産の相続や処分ができるようになるというのがこの制度のメリットとして挙げられますが、他にも、この制度を利用することで行方不明者の配偶者は他者と婚姻(再婚)できるようになるといった点もメリットとして挙げられるでしょう。

では、実際にどのように失踪宣告をするのか、確認していきましょう。

失踪宣告には種類がある

まず、失踪宣告における失踪には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。

普通失踪

行方不明者(不在者)の生死が7年間不明なときは、家庭裁判所は利害関係人の申立によって、失踪の宣告をすることができます(民法30条1項)。普通失踪の場合、不在者は失踪から7年間が経過した日に死亡したものとみなされます(民法31条)。

特別失踪

戦争や船舶の沈没であったり、震災等により不在者の生死が不明な場合、危難が去ってから1年間以上経過していれば、家庭裁判所は利害関係人の申立によって、失踪の宣告をすることができます(民法30条2項)。この特別失踪の場合、不在者は危難が去った時に死亡したものとみなされます(民法31条)。

失踪宣告する上でのポイント

では、普通失踪と特別失踪の場合とで手続きする上でポイントとなる部分を確認していきましょう。

失踪宣告する上での前提条件

 

失踪宣告とは上記の通り、「行方不明者を死亡したものとみなす」という、とても強い効果をもたらす制度です。そのため失踪宣告が認められる前提条件も厳しくなります。

前提条件として行方不明の期間があります。

普通失踪の場合:行方不明になってから(最後に生存を確認してから)7年間

特別失踪の場合:行方不明の原因となる危難が去ってから1年間

普通失踪では、上記の通り7年間の生死不明が条件となります。7年もの間、生死不明で誰からも連絡がつかないような状況があれば、その人は死亡している可能性が高いと考えられるためです。

一方で特別失踪では、原因となる危難(戦争や震災など)という事実がある以上、その危難により死亡している可能性が高いと言えます。そのため、普通失踪の場合よりも短い1年間という条件が設定されています。

 

申立て方法と必要書類

失踪宣告の大まかな流れとしては、

家庭裁判所への申立て⇨家庭裁判所の調査官による調査⇨不在者が生存していれば届け出るように催告⇨一定期間内に届け出がなければ失踪の宣告⇨各役所等に失踪の届け出

といったものになります。

(申立てをしてから失踪が宣告されるまでには半年以上の期間がかかります)

 

まずは申立てをする必要があるわけですが、失踪宣告の申立ては、行方不明者(不在者)が住んでいた場所を管轄する家庭裁判所で行います。

なお、申立てができる人も決まっており、不在者の家族などの利害関係人が該当します。

利害関係人とは、不在者の配偶者、相続人、財産管理人、受遺者など、失踪宣告を求めることについて法律上の利害関係のある人のことです。

家庭裁判所に申し立てる際に提出が必要となる書類は下記のとおりです。

・家事審判申立書

・不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)

・不在者の戸籍附票

・収入印紙800円分

・郵便切手(書類のやり取り用、管轄裁判所により異なる)

・官報公告料4,816円

・失踪を証する資料

・申立人の利害関係を証する資料(親族であれば戸籍謄本など)

裁判所のHPでダウンロードできるものや、管轄の役所等で取得できるものが殆どになりますが、失踪したことを証する資料についてはある程度準備に時間を要する場合が多いものになります。

どういった書類が該当するのか下記に説明いたします。

 

失踪を証する資料とは

失踪を証する資料とは具体的にどんなものでしょう?

これは例えば、

・警察署が発行する行方不明者届受理証明書

・不在者の住所宛てに出した本人限定郵便等が受取人不在(あて所に尋ね当たりません)で返送された記録

・探偵に依頼した調査報告書

・上申書(失踪の状況や経緯などを説明したもの)

などが該当します。

これらの書類は必ずどれが必要という性質のものではなく、不在者が行方不明であるということを示すための書類ですので、できる限り多く準備できるのが望ましいです。

上申書などはある程度書き方のひな形等もあるため、他の書類の準備にせよ、我々専門家に頼るのが最もスムーズに多くの書類を準備できる方法かと思います。

失踪の宣告が認められた後の手続きについて

大まかな流れについては前述しましたが、家庭裁判所により失踪宣告が認められたからといって、不在者の死亡が自動的に擬制される(戸籍等にその旨が記載される)わけではありません。

失踪宣告をした申立人は、審判が確定してから10日以内に、不在者の本籍地又は申立人の住所地の役所に対して、「失踪の届出」をする戸籍上の義務があります。届出には、審判書謄本や確定証明書が必要になります。

 

これらも事前に管轄の役所などに必要となる書類を確認しながら進めるのがよいでしょう。

失踪宣告のデメリット

さて、続いては失踪宣告のデメリットを確認しましょう。

失踪宣告のデメリットしては、下記のような点が挙げられます。

①失踪宣告をするには時間がかかる

前述しましたとおり、失踪宣告を利用するには不在者が一定期間生死不明であるという前提があります。そのため、その期間を満たしていなければ、当然に期間経過を待つ必要がでてきます。

また、手続きを進める段階でも、一定期間の官報公告等が条件となるため、どれだけスムーズにお手続きが進んでも半年以上の時間を要します。

②不在者の死亡が擬制されることで、把握していなかった相続人がでてくる可能性もある

失踪宣告により不在者が死亡したとみなされると、死亡したとみなされた日に不在者の相続が発生することになります。

ここで、例えば、不在者に配偶者がいた場合(子供はいない)を想定します。

不在者の推定相続人は配偶者(場合によっては直系尊属や兄弟も)となるわけですが、もし不在者の死亡が擬制された日よりも後に配偶者の方がなくなっている場合(もしかしたら失踪宣告の手続き中に亡くなってしまう可能性もありますよね)、配偶者の相続人も、手続きに関与すべき相続人となります。亡くなった順序によって、相続人が変わる可能性があるということです。

③不在者が生きていた場合

不在者が実は生きていたということとなりますと、場合によっては失踪宣告で得た財産の返還をしなければならないケースもあります。

こちらは次の段落で詳しく説明いたします。

不在者が生きていた場合

 

では、不在者が生きていた場合はどうなるのでしょうか。

前提として、失踪宣告がされた後に、不在者の生存が判明しても、自動的に失踪宣告の効力が消滅するわけではありません。

不在者本人または利害関係人が、家庭裁判所に失踪宣告の取消し請求をする必要があります。失踪宣告が取り消されることにより、失踪宣告前の状態に戻り、不在者の相続も発生しなかったことになるのです。

ただし、失踪宣告が取り消されても、取消前に善意でした行為に影響はありません。

善意とは、不在者が生きているという事実を知らなかったという意味です。

なお、失踪宣告により残された配偶者は再婚が可能となりますが、この場合も当事者双方の善意があれば、効力が失われることはありません。

もう1点注意が必要なのは、取消により失踪宣告により受け取った財産の返還義務が生じる点です。

ただし、返還が必要になるのは、現に利益を受けている限度のみとなります。

ここで言う現に利益を受けている(現存利益)とは、同じ形で残っているという意味ではありません。

例えば100万円を失踪宣告により受け取った場合に、全てを生活費に使い切っていても、現存利益は100万円です。

この現存利益に当たるかどうかの判断については判断が難しい場合が多いかと思いますので、専門家への相談をお勧めいたします。

その他の手続き

ここまで失踪宣告について説明してきましたが、不在者がいる場合で、他に選択肢となる手続きもあります。

それが不在者財産管理人の申立ての手続きです。

不在者財産管理人の申立ての場合、失踪宣告と比較すると、前提となる行方不明の期間や、申立てができる利害関係人の範囲、実際に申立てが認められた際の効果(不在者財産管理人が選任されても不在者の死亡が擬制されるわけではありません)など異なる点がいくつかあります。

今回こちらの記事では詳細は割愛させていただきますが、どちらの申立てが適切なのかは、状況によって判断が必要となります。

こちらもぜひ、我々専門家へご相談ください。

まとめ

✔行方不明の方がいて手続きに困った場合は「失踪宣告」が選択肢になる

✔失踪宣告は行方不明者の死亡を擬制できるというとても強い効果が得られる制度

✔ただし、前提となる条件や、デメリットもあるので注意が必要

✔不在者財産管理人という選択肢もあるため、状況により判断が必要

「自分の場合でも失踪宣告が使えるのだろうか?」

「失踪宣告と不在者財産管理人どちらを申立てるのがいいの?」

などのお悩みでしたら、ぜひ我々専門家へご相談ください。

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