2023.02.28

知らないと危険!家族信託で後悔しないために知るべき4つの事例

家族信託は、判断能力を喪失してしまう前に財産の管理や処分を心から信頼できる第三者(ご家族であることが殆どです)に任せておくという法律の仕組みです。

家族信託を行うことで、判断能力が低下してしまっても財産を管理したり処分(売買など)したりすることが可能となります。

超高齢社会にあって、認知と利用が高まっている家族信託ですが、気をつけないと思わぬトラブルとなってしまうことがあり、とても危険です。

この記事では、筆者が実際に経験した家族信託にまつわるトラブルをご紹介します。

お読みいただくことで、家族信託のトラブルを回避し、「こんなはずでは…」「やらなければよかった」という後悔を避けることができます。

※本記事における「トラブル」とは、一度実行した家族信託契約の継続が困難になったり、百万円単位の経済的損失が発生することを指すものとします。

せっかくした家族信託で後悔しないためのも、是非最後まで御覧ください。

関連記事:家族信託の仕組みとメリット・デメリットを徹底解説

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私たちが実際に経験した家族信託の失敗事例

私たちは2016年頃から家族信託のご相談を継続的に行っています。

沢山の家族信託に関与させていただく中で、殆どのケースはご家族同士が助け合って信託を行っており、トラブルが発生することはありません。

一方で、ごくわずかなケースでは信託を継続することが困難な状況や経済的な損失が発生する事態に陥ってしまっています。そのような信託は、概ね以下の4つのパターンとなります。

① 委託者兼受益者と受託者のすれ違い

② 受託者と信託監督人の関係悪化

③ 受託者の倫理観が欠如

④ 贈与税の課税

せっかくの家族信託を途中で終了させるというのは、初期費用が無駄になるだけではなく、解除に伴う費用も発生してしまいます。また、ご家族同士の信託関係にも好ましくない影響があり、後悔することになってしまいますので、絶対に避けるべきです。

では、ひとつずつ見ていきましょう。

委託者兼受益者と受託者のすれちがい

一つ目は、「委託者兼受益者と受託者のすれ違い」です。

「すれ違い」とは、委託者兼受益者が望む財産の管理や処分の方法と、受託者が実行する財産の管理や処分の方法が食い違い、委託者兼受益者が大きな不満を抱くような場合を指します。

今まで数件、委託者兼受益者が受託者による財産の管理や処分の方法等に強い不満を抱き結局信託契約を解除したいという判断になってしまったケースがあります。

委託者兼受益者と受託者の望ましい関係とは?

そもそも、家族信託において委託者兼受益者と受託者はどのような関係が望ましいのでしょうか。信託とは、読んで字のごとく財産の管理を「信じて託す」という契約です。よって、委託者兼受益者と受託者は、非常に強い信頼関係で結ばれていることが前提となり、基本的には「全面的に任せる」というスタンスであることが望ましいです。

信託の前にしっかりと話し合うことが重要

家族信託の委託者兼受益者の望ましい関係は、上記のとおりですが、解決策として大切なのは信託を行う前に以下のような事項を家族間でよく話し合うということです。

何のために信託を行うのか

どのような財産を信託するのか、それはなぜか

・信託した財産について今までどのように管理してきたか

・信託した財産を今後具体的にどのように管理してほしいか

絶対にしてほしくないことは何か

このような話し合いがなされないまま、「時間がないから/手間だから/揉めそうだから」という理由で話し合いを省略してしまわないように注意してください。

【実例】相互理解が不十分ですれ違いが起きてしまったケース 

過去に発生してしまった具体的な事例をご紹介します。委託者兼受益者は、81歳の男性Aです。

東京都練馬区に自宅と古い木造アパート(築40年以上)を保有していました。

これらの不動産を、お子様がいらっしゃらないので姪Bに信託をして自分のために財産を管理してほしいと希望されておりました。

今後、自分の判断能力が落ちても、適切にアパートを管理し、家賃収入を自分のために使ってほしいということです。

信託契約自体はスムーズに結ぶことができたのですが、問題は信託の運用期間中に起こりました。

信託財産である木造アパートは大変古く、なんと全6室中2部屋しか稼働しておりませんでした。

相続発生までは建て替え等はしない方針でしたので、稼働率を上げようと受託者は賃料の大幅な値下げを不動産会社に指示し、事後的に委託者兼受益者に報告をしたところ、委託者兼受益者はこのことが不満で自分から不動産会社に連絡をし、今まで通りの賃料で募集をするように不動産会社に指示をしました。

この後も、室内のリフォーム等を巡り意見が合わず、委託者兼受益者Aと受託者Bの関係はますます悪化し、最後は受託者Bが自ら「辞めたい」と申し出る結果となってしまいました。

 本ケースは、委託者兼受益者にお子様がおらず、信託する相手が姪しかなかったという理由で、姪Bを受託者にしたという経緯から、そもそもの信頼関係が不十分であったという点と、事前のお話合いが不十分であったところにトラブルの火種があった実例です。

受託者と信託監督人の関係悪化

2つ目は、信託監督人による過干渉の事例です。

家族信託では、受託者による財産管理や処分が適正に行われているかをチェックする役割である「信託監督人」を設定することができます。信託監督人を置くことで、適切な管理を担保することが期待されます。

一方で、信託監督人と受託者の関係性が良好でない場合は注意が必要です。

 家族信託における信託監督人とは?

家族信託における必須の登場人物は、委託者・受託者・受益者です。

信託設定時の委託者と受益者は、特別な理由がない限り同一人物となりますので、最低限必要な登場人物は委託者兼受益者と受託者の二人であるということになります。

ここで問題になるのが、「受託者がキチンとした業務を行ってくれるのか?」ということです。

これは、家族信託のデメリットでもあるのですが、信託を受けた受託者は広範な権限を持つこととなるのに加え、委託者兼受益者の判断能力が衰えてしまうことがあるため、受託者による横領等が起きてしまう可能性があります(原則、受託者は誰の管理監督も受けません)。

これを防ぐために設定できるのが、「信託監督人」という役割です。

「信託監督人」とは、大まかに申し上げると「受託者の仕事ぶりを監督する役割」として設定する立場です。

この立場の人間を関与させることで、受託者による横領等を防止する可能性を高めることができます。なお、信託監督人はご家族がなるケースが多いとご理解ください(受託者が長男、信託監督人が長女 など)。

関連記事:信託監督人が親の財産の見張り番になる

受託者と信託監督人はお互いを尊重すべき

家族信託の見張り番となる信託監督人ですが、受託者の財産管理の透明性を確保したい場合に設定すると効果的です。

例えば、複数の推定相続人(将来的に相続人になる人)がいる場合を想定してみてください。

家族信託を行い、推定相続人の誰かが単独で受託者となる場合、他の推定相続人からすると適切な管理をしてくれているか、関心がありますよね?

受託者となる推定相続人としても、無用な争いは避けたいので、受託者以外の推定相続人を信託監督任人とすることで、財産管理の透明性を担保することができるということです。

ただし、トラブルを避けるために重要なのは信託監督人は「受託者の立場を尊重すべき」だということですいくら信託事務を監督する立場にある信託監督人であっても、受託者の立場を尊重せずに過干渉を続けては、関係悪化が起きてしまいトラブルになる危険があります。

【実例】信託監督人が過剰に受託者を監督し、関係悪化したケース

ここまで理解していただくと、信託監督人もなかなかよさそうに思えますよね。もちろん、殆どのケースでは受託者と信託監督人は協力し、適切な信託を運営して頂いています。

しかし、まれに受託者と信託監督人との間で意思疎通が困難になり、信託運営に支障が出るケースがあります。例えば、以下のような場合です。

 委託者を父、受託者を長女、信託監督人を次女として東京都武蔵野市の土地・建物を信託しました。これはアパートで、家賃収入を父のすぐ近くに住んでいる長女が管理し、父の生活費や介護費を支出するという目的を持ってのことです。

長女は自分だけが財産を管理するのは気が引けるとのことで、透明性を担保する目的で次女を信託監督人とすることにしました。

ところが、信託契約が終わりしばらくすると次女から長女に対して毎週のように信託財産の管理状況の報告として通帳のデータを提出するように依頼が来るようになりました。

また、賃借人さんが退去した際には、「室内クリーニングの費用が高すぎる!」といって受託者である長女が実行した信託事務についてクレームをつけるようになりました。

受託者である長女は困ってしまい、父と相談の上信託契約の内容を変更し、信託監督人の定めを削除することで合意しました。この際、信託監督人を事実上解雇された次女は大いに立腹してしまい、建設的な話し合いができなくなるという結果を招いてしまいました。

 以上のケースから、推定相続人間に配慮し、それぞれに役割を与えるという目的をもってした信託監督人という立場は、受託者に対してある程度の監督権限を持つがゆえにトラブルの火種となってしまう可能性があると言えると考えられます。皆様も、信託監督人の設定はよく検討の上実行してください。

受託者の倫理観の欠如

3つ目の事例は、シンプルに受託者による信託財産の流用が発生したケースです。

信託の受託者は、委託者から信託財産の管理や処分の権限を与えられ、多くの場合は誰の監督も受けずに信託事務を遂行していきます。

そのため、受託者には相応の事務処理能力や何よりも倫理観が求められます。このパートでご紹介するのは、倫理観が欠如したご家族を受託者としたためトラブルとなってしまったケースです。

受託者の役割と法的義務

家族信託における受託者の役割とは、「信託契約の目的にしたがって、委託者兼受益者のために、信託財産を適切に管理・運用・処分を行うこと」です。

他人の財産をお預かりして、単独で業務を遂行するわけですから、自分の財産を扱うよりもすごく注意してやるという法律上の「善管注意義務」や、とにかく受益者のために業務を行うべしという「忠実義務」といういくつかの法的な義務に縛られています。

受託者による横領の危険性

しかし、そんな義務が課せられているとはいっても、誰かが毎日張り付いて受託者を見ているわけではありません。

また、信託監督人を設定していなければ委託者兼受益者以外の第三者によるチェックは行われないのが家族信託なのです。

このことは、受託者が信託財産の横領等を行おうと思えば、容易に可能であることを意味しています。

つまり、倫理観の低い人に受託者を任せることは非常に危険で、後悔のもととなりますので、必ず人間性的にも信頼できる人を受託者に選ぶようにしてください。

【実例】受託者が不動産を売却したお金を横領していたケース

ここで、実例をご紹介したいと思います。このケースは、とある信用金庫さんからのご相談で、すでに実行した家族信託を解除するにはどうしたら良いかというお話を頂きました。よく話を聴いてみると、当事者の主張等は以下のようなものであるとのことです。

  • 父から長男に東京都江戸川区の土地、建物を複数物件信託した
  • 相談者の信用金庫さんは、その信託における信託口口座を開設した金融機関である
  • ある日、信託の委託者兼受益者と受託者以外の家族から金融機関に相談が入った
  • それは、「受託者である長男が、信託財産を私的に使用しているので口座をロックしてほしい」という内容だった
  • 詳しく聞くと、受託者である長男は信託を受けた不動産であるマンションを委託者兼受益者に黙って売却し、その売却金を自身の個人口座へ入金させた
  • 信託口座に入っている預金も個人名義の口座に現預金を移されてしまう可能性があるので、早急に口座を凍結してほしい

簡単に調査をしたところ、確かに対象物件は第三者に所有権が移っており、かつ売買代金は信託口口座と言われる信託用の口座には入金されていないことが解りました。

委託者兼受益者としては、

・受託者を解任して長女に変えたい

・お金の流れを明らかにして補填させたい

とのことでしたので、弁護士と連携をして「義務違反による信託契約の解除」と「私的に私用した金銭の補填(実際に数百万円使用していたようです)」を請求することとなりました。

 我々は、信託の組成に関与しておりませんので、なぜそのような人物を受託者としてしまったのかは大変疑問ですが、このケースから学ぶべきは、「受託者には高度な倫理観が求められ、家族だからというだけでは任せるか否かは判断できない」ということです。

贈与税の課税

最後は、信託を実行したら贈与税が発生してしまったケースをご紹介します。

家族信託を行うと、不動産などの名義は受託者に移ることとなります。

例えば、父から娘へ信託した場合、不動産の登記名義も父から娘へ切り替わるということです。

このような信託の性質から、「名義を移すということは贈与税がかかるのでは?」と思われる方もいるかと思います。

基本的な事を理解していれば、贈与税がかかるようなことはありませんが、逆に基本的なことに対する理解がない場合は、贈与税がかかってしまうこともあります。

贈与税は非常に税率の高い税金ですから、注意しないと信託をしたら経済的損失(多額の税金)が発生した!ということになりかねません。

 信託と贈与

まずおえておきたいのは、信託をしたからといって直ちに贈与税が課税されることは原則としてありません。

なぜなら、信託と贈与は明確に異なる行為であり、信託は贈与のように「無償で財産を誰かにプレゼントした」わけではないからです。ただ、自分のために財産の管理や処分を託しただけなので、「贈与」ということではないのです。

  • 信託 →財産の管理や処分を受託者に託すこと
  • 贈与 →自分の持っている財産などを対価なしで誰かにプレゼントすること

贈与税が課税されてしまう条件

しかし、一つだけ気をつけなければいけない条件があります。

それは、信託を設定するときは、常に「委託者=受益者」という形を守ることです。

すなわち、委託者がそのまま受益者となるように信託を組まなければ、税務的には贈与とみなされてしまうということです。

信託の法務・税務上は、「受益者が所有権を持っている」と考えることになっています。

つまり、名義上の所有者は受託者だけど、本当の所有者は受益者であるということです。

ですから、財産を持っていた委託者がそのまま受益者となるのであれば、信託の法務・税務上は「財産はだれにも動いていない」という理解となるのです。

ですので、解決策としては必ず「委託者=受益者」という構図にするか、「相続をきっかけに権利が渡る」構図にすれば、贈与税の課税を避けることができます。

【実例】信託設定時にみなし贈与の課税をされたケース

 以上をふまえ、信託と同時に贈与税を支払ってほしいという私的を受けたケースをご紹介します。それは、このような内容の信託でした。

・委託者:父83歳

・受託者:長男57歳

・受益者:父83歳・母81歳(受益権持分2分の1)

・信託財産:現金1000万円、自宅土地・建物(相続税評価額3500万円)

この信託の内容では、委託者=受益者の構図が崩れてしまっています。

つまり、財産を持っているのは父だけなのに、受益者という真の所有者の立場に「母」も入ってしまっています。

これは、母の立場からすると「経済的負担をすることなく受益権を取得した」という状態となり、「みなし贈与」と言って贈与税が課税される対象となってしまいます。

実は本件は、お父様と長男様で家族信託を学び、ご家族だけで信託契約を行った事例でありました。後日、税務署から贈与税のお尋ねが来たことにより発覚したという実例です。

結局、税務署とお客様との間でお話しし、「錯誤」という理由で登記などを全て抹消することで今回は贈与税の課税は免れたとのことでしたが、登記には登録免許税という税金もかかっていますので、時間と費用を無駄にしてしまったのではないかと思われます。

まとめ

さて、ここまではいかがでしたでしょうか?家族信託は、使い方によっては判断能力を喪失してしまっても財産を管理・処分が可能となるとても利用価値のある制度です。

ですが、下記のようなトラブル事例があります。

話し合いが足りず委託者と受託者がすれ違い

信託監督人の過剰監督で関係悪化

受託者の倫理観の欠如

みなし贈与税が課税された

家族信託をご検討の皆様は、ぜひ本記事を参考にしていただきながら、専門家の活用を積極的に検討してみてください。

私たちは、家族信託はもちろんのこと、遺言や任意後見・贈与・保険など、様々な手法を総合的にご提案して皆様のご不安を解消いたしております。

お困りの際はいつでもご相談くださいませ。Youtubeやメールマガジンでも有益な情報を発信しておりますので、そちらも併せて登録等よろしくお願いいたします。

それでは、また別の記事でお会いしましょう。最後までご覧いただき、ありがとうございました。


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