ご家族の方が最近物忘れが多くなったり、同じことを何回も話したりしていて
不安に思っていませんか?
もし認知症になってしまったら、日常生活の不都合に加えて、
「本人の財産管理ができなくなる」という災厄が降りかかってしまいます。
2025年には認知症患者は700万人にのぼるとも言われています。
手遅れにならないうちに、少しでも異変に気付いたら対策を打つべきです。
目次
認知症対策としては成年後見制度や家族信託といった制度があります。
そんな中、「成年後見制度と家族信託はどちらがいいの?」というご相談を良くお受けします。
多くの方が、どちらかを選ばなくてはいけないと思われてしまうようですが、
実はそんな事はありません。
今回はその点について、両制度のメリットやデメリットも踏まえ、解説します!
一口に成年後見制度と言っても2種類あります。
その一つが法定後見です。
法定後見とは、判断能力の衰えたご本人、又はそのご家族等が家庭裁判所に申し立てて、
家庭裁判所がご本人の支援者を選任する制度です。
なお、既に認知症等で判断能力が喪失してしまっている方は、この制度を使うより他はありません。
この制度ですが、実は人気がありません。
実際、認知症患者数は平成30年に600万人を超えているという推計もありますが、
そのうち法定後見の利用者数は21.5万人です。
つまり、90%以上の人が、後見制度を「利用していない」のです。
なぜでしょうか?理由は3つ考えられます。
先述のとおり、法定後見の後見人は家庭裁判所が選任します。
では誰が選ばれるのでしょうか?
実は、4人に3人の割合で第三者(弁護士・司法書士・社会福祉士など)が選ばれています。
「家族で引き受けてくれる人がいるから大丈夫」と思いますよね。
ですが、たとえご本人の身内でご本人の面倒をみる人がいたとしても、
同様に第三者が選任される可能性はあります。
つまり、法定後見の申立てを行うと、
その後裁判所に選任された見知らぬ人が訪ねてきて「財産の管理はこれから私が行います」と言って、
ご本人名義の通帳や権利証などの大切な書類を全部持っていってしまうかもしれないのです。
2つ目はコストです。
さて、専門家が法定後見人に就任して、「無料」で財産管理をしてくれるでしょうか?
いいえ、そんなはずはありません。
管理する財産額によって変わりますが、法定後見人の報酬は年間で24万円~72万円です※1。
例えば、ご本人の預貯金が2000万円位であれば、報酬は年間で36万円程でしょう。
ご本人が亡くなるまで、これを毎年毎年支払い続ける事になります。
10年なら360万円、20年なら720万円です。
管理する預貯金(2000万円程度)と比べて、ずいぶん重たい負担のように感じられます。
また、特別な仕事(例:不動産の売却)を行った時に発生する付随報酬というものもありますので、
実際の金額は想定より多くなることもしばしばです。
コストだけではありません。
法定後見人が財産を管理するのは「本人のため」であり、家族のためではありません。
例えば、後見人が付くと、「家族旅行の費用」や「同居している家族のマンションの賃料」などはご本人の全額負担というわけにはいかないかもしれません。
もしも、ご本人が元気なうちに、「孫が大学に合格したら学費を出したい」「住宅用の資金を贈与したい」「毎年110万円以下の範囲で贈与したい(暦年贈与となり贈与税がかからない)」などと仰っていたとして、
その意思が認知症になった後で尊重されないとしたら、とても悲しいですよね。
とはいえ、法定後見は悪い面ばかりではありません。
後見制度が必要であるにも関わらず、ご本人やご家族が何らかの事情があって申立てができない場合に、市区町村長が申し立てることができるのです。
ちなみに、申立て数の全体のうち約21.3%が市区町村長※2となっており、その割合は増加傾向にあります。
※1http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf
※2http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20190313koukengaikyou-h30.pdf
任意後見とは
もう一つの後見制度は任意後見です。
任意後見は、ご本人が元気なうちに後に後見人となる方を事前に選び、契約を交わしておく制度です。
そして、いざご本人が認知症等により判断能力が低下した時に、裁判所に申し立てることで後見をスタートするという制度です。
法定後見と違い、任意後見は後見人をあらかじめご本人が選べます。
しかも、管理してもらう財産の内容や報酬にいたるまでご本人が決めることができるので、
法定後見と比べてかなり柔軟にご本人の意思を反映できます。
その代わりに、裁判所の選任した後見監督人が、後見人がご本人の財産を不正に使わないかなど監督します。
この任意後見契約をしておけば、本人の判断能力がなくなってしまっても任意後見の方が法定後見に優先しますので、
法定後見人が就くことが基本的にはできません。
なので、法定後見の開始を防止することもできます。
任意後見のデメリット
ただ、任意後見にもデメリットがあります。
本人の判断の力が低下して、任意後見をスタートさせると
任意後見監督人が選任されます。
この後見監督人には、法定後見と同じく、第三者が選任されます。
後見人にご家族が就いても、結局第三者(弁護士や司法書士等の専門職)が関与するのです。
見知らぬ人が財産管理に介入して欲しくないという想いを抱く方は多いのではないでしょうか。
続いてはコスト面です。
任意後見人への報酬は自由に決められますし、決めなかった場合は無報酬となります。
しかし、後見監督人に対してはその報酬として月に1~3万円を、ご本人の財産から支払わなければいけません。
この報酬は原則、ご本人が亡くなるまで、発生します。
任意後見も法定後見と同じく「本人のための」財産管理を行う義務を負います。
そして、事前に結んだ契約の内容に応じた法律行為をすることができます。
例えば、自宅の売却といった行為もすることができます。
ですが、積極的な資産運用や相続税対策が契約書に明記されてあっても実現されない可能性が高いです。
親から子への住宅資金の贈与などもそうですが、”本人と為といえるか?”という部分で、監督人との協議の結果によるでしょう。
家族信託は、任意後見制度と同じく、財産の管理をご本人が信頼する人に契約に基づいて行ってもらう制度です。
そして、家族信託は裁判所や裁判所が選任した専門職などが関与することなく、家族のみんなで決めることができ、財産の使い道もご本人の意思に基づいて自由に設定できます。
例えば自宅の売却なども「信託の目的」に沿っていればできますし、資産運用・節税対策のために使うこと、信託の目的に適合するのであれば可能です。
さらに、裁判所や専門職が関与しないことから、成年後見制度で前述した、“継続的にかかるコスト”がありません。
関連記事:契約前に必ず知っておきたい!家族信託の9つのデメリット
冒頭のとおり、家族信託と後見制度はどちらかを選ばなくてはいけないわけではありません。
組み合わせて使えるのです。
家族信託を使って、家族で柔軟な財産管理を行いながら、信託しなかった財産(家族信託では、財産の一部を信託するという事も可能です。)については、任意後見契約で包括的に認知症対策をしたり、身上監護に備えておくという事も可能です
その場合、自分の意志に基づき、家族の為にも使いたい財産や第三者に介入されたくない財産は、家族信託で信託しておくことが重要になります。
それでは最後にそれぞれの制度の特徴をまとめます。
各制度の特徴
①法定後見
認知症になってしまった人の財産管理と身上保護を成年後見人に任せる。
②任意後見
元気なうちに後見人を自分で決めておき、後見人を監督する人は裁判所が選任する。
③家族信託
元気なうちに財産管理・運用を家族に任せる。
やはり、本人の判断能力がまだ十分にあるうちに準備をすることができるのなら、家族信託の優位性は高いと言えます。
なるべく早い段階で、ご家族との話し合いの場を設けたり、無料相談を受けてみてはいかがでしょうか。
リーガル・コンサルティング&パートナーでは、常時無料でのご相談を受け付けております。
最後まで、ご覧いただきありがとうございました