家族信託は節税目的でするものではありません。
しかし、課税の仕組みを理解しておかないと、予期せぬ税金を課される可能性があります。
特に、不動産をはじめとする大きな財産を信託する場合は、信託契約の内容をしっかり検討していないと、高額な「贈与税」が課される場合があるので、注意が必要です。
そこで今回は、家族信託をした場合の課税のしくみと、どのようにすれば贈与税が課されなくなるのかを解説いたします。
結論から言えば、「相続を原因として権利が承継されるように信託契約をする」ということになります。
▽動画でも解説しています▽
この記事のポイントは3つです。
贈与税を課税されるのは、受益者であり、受益権を無償で譲渡したら新受益者に贈与税が課税される。
しかし、委託者と受益者が同一の人であれば、贈与税は課税されない。
委託者(兼受益者)が死亡した時に相続人がに受益権を取得する(又は帰属権利者となる)ようにしておいた場合、贈与税ではなく相続税が課税される。
では、詳しく見ていきましょう!
目次
家族信託の当事者は、「委託者」「受託者」「受益者」です。
委託者は財産を託す人、受託者は財産を託される人、受益者は信託財産から利益を受ける人です。
委託者が受託者に財産を託すと、不動産の所有権は形式的に受託者に移ります。
受益者となった方は、その不動産からの利益を受けられます
この時、贈与税が課せられるのは、先ほどの3者のうちの誰でしょうか。
なんとなく、所有権の名義が(形式的に)移る受託者だと感じられたのではないでしょうか。
そもそも「誰に」税金がかかるかについての考え方は、税務上、財産から生み出された利益を実質的に受けた人に課税する「実質所得者課税の原則」という考え方を採用しています。
家族信託において、財産の名義は形式的に受託者に移りますが、信託財産から生み出された利益を受けるのは受益者です。したがって「所有者≒受益者」であるので、税金は原則として受益者に課税されます。
そして、贈与税は「適性な対価を負担せずに経済的利益を得た人」が納めるものです
家族信託で不動産の名義が受託者に移るといっても、その利益を実際に受ける人は受益者なので(受託者は義務を負いますが、その不動産から利益を得るわけではありません。)
家族信託の場合は、委託者から受益者にみなし贈与がなされたとして受益者に贈与税が課税されるのです。
しかしこれは、委託者と受益者が「違う人」だった場合です。委託者が受益者となった場合には、実質的には権利は動いていないので、贈与税は課税されません。
何故なら、受益者とは『実質的な所有者』であるため、委託者から受益者に贈与がされたとはみなされないからです。
原則として、専門家が信託契約を組成する場合は、当初の受益者=委託者となるように設計し、贈与税がかからないように契約書を作成します。
また、家族信託では受益権を他人に譲渡することができます。
この時は、贈与税が課税される場合があります。受益権を譲渡するのは2つのパターンがあります。有償で譲渡するか、無償で譲渡するかです。
家族信託設定後、受益権を他人に無償で譲渡した場合には、新しい受益者に贈与税が課税されます。
受益権は、売買することもできます。受益権を売買によって、有償で譲渡した場合には、譲渡をした元の受益者に「譲渡所得税」が課税されます。
受益権を譲渡して利益を受けたのが元の受益者だからです。
不動産の所有権を取得すると、不動産取得税が課されます。
しかし、家族信託の場合には、受託者は所有権を取得するのではなく、形式的な名義人になるに過ぎません。ですから、受託者には不動産取得税は課税されません。
同じように、受益者も不動産の所有権を取得していないので、不動産取得税は課されません。
結果、家族信託では不動産取得税はだれにもかかりません。
不動産を信託するときに、その旨を登記する必要があります。登記申請の際には、登録免許税を納めなければなりません。この時の税額は固定資産評価額の原則0.4%です。土地については0.3%の軽減措置があります。
不動産の所有者には固定資産税が課税されます。
家族信託をすると、受託者が不動産の名義人になっていますから、固定資産税の納税通知書は受託者のもとに届き、受託者が納付の手続きをします。
受託者は信託財産の管理を託されており、固定資産税はその管理費用です。なので、受託者は信託財産から固定資産税を支払うことができます。
ここまで紹介した中でも、贈与税は高税率な税金です。
贈与税は、贈与額が年間で110万を超えると課税されます。その税率は、1,000万円程度の財産でも30~40%と高税率です。
この贈与税を避けるためには、「受益権の移転の仕方」または「信託終了時の財産の帰属」に注意しなければいけません。
具体的には、受益権を移転させるときは、受益者の生前ではなく、「受益者の相続をきっかけに」権利を移転させる(または信託を終了させて、財産を帰属させる)のです。
相続時に受益権を移転させたい場合には、受益者連続型信託という方法で設計していきます。
受益者連続型信託については、こちらの記事でも解説しています♪
関連記事:もっとあなたの想いを叶える家族信託『受益者連続型家族信託』はこう使う
受益者連続型信託とは、今の受益者が持っている受益権が、今の受益者の相続時に次の受益者に移転する定めのある信託です。
相続時に受益権が移転すると、新しい受益者に対して、贈与税ではなく相続税が課税されます。
また、委託者兼受益者の相続時に、信託が終了し帰属権利者に財産が帰属するように定めておく『遺言代用型信託』という方法でも、贈与税ではなく相続税が適用されます。
関連記事:弁護士が遺言書を偽造!遺言代用型家族信託にしておけば…
そして、もっとも重要なことは、相続税であれば、基礎控除額を超えるまでは、そもそも課税されないということです。
基礎控除額の計算式
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
上述のとおり、基本的に相続税よりも贈与税の方が高い税率であり、控除の幅も相続税の方が大きいです。
なので、受益権を移転させるのなら、相続の時にした方が税金が安くなります。(本稿では全て推定相続人に相続させるという前提です。)
贈与税の課税を避けるためには、次のようなことに注意する必要があります。
①当初の受益者を委託者と同じ人にする。
②受益権を移転させる場合は、委託者の相続をきっかけに、一次受益者から二次受益者に受益権が移るようにする。
③または、委託者が亡くなった時に信託が終了し、残余財産が相続人に帰属するようにする。
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