いずれ誰にでも訪れる相続に備えて、一番最初に検討して欲しい対策が遺言書です。
「相続のときには子供らがうまく財産を整理してくれるはず。」「遺言なんて縁起が悪いから嫌だ。」このように考えている方はたくさんいらっしゃいます。
しかし、悲しいことにその結果として、残された家族の間でトラブルになったり、思う通りに相続手続きが進まないというケースを数限りなく見てきました。
遺言書があれば、自分の想いを家族に託し、相続トラブルの予防や相続人の手続き負担を軽減することができるのです。
その遺言書の中でも、自筆証書遺言というものがあります。
自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば誰でも作成でき、自分ひとりで完結できますので、簡単に素早く遺言を完成させたい方におすすめです。
遺言書を書くことは、自分が生きてきた証を総決算し、それを家族や社会のために貢献するという、大変意味のある活動です。
今回は、少しでも皆さんに自筆遺言を身近に感じてもらえるように、自筆証書遺言のメリットや、書き方について解説していきます。
▼動画でも解説しています。
目次
遺言書には主に、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
自筆証書遺言とは、作成する人が『財産目録以外の全文を自署』する形式の遺言書です。
この方法で作成した遺言書も、公正証書遺言と同じように以下のような効果が期待できるのです。
・相続人全員の話し合いが不要になるため、紛争防止効果がある
・財産を相続する家族の手続き負担が軽減する
・想いが伝わることで、相続人間の感情調整の効果が期待できる
遺言を何のために書くのかはこちらでも解説しています。
関連記事:遺言書は何のために書く?遺言書のメリットや家族信託との比較
自筆証書遺言と公正証書遺言には下の図のような違いがあります。
ひとつずつ見ていきましょう。
自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば自分一人で作成できるので、手軽に書けますし何より費用がかかりません。
そして、自分しか関与者がいないため、書き直しなどが比較的容易にできることもメリットのひとつです。
まだまだお元気なうちに遺言書を書くことは非常に良いことですが、資産構成や気持ちが変わる可能性も少なくありません。
手軽に書き直せることで、何度でも検討でき、徐々に気持ちを固めていくということができるのです。
一方で、デメリットもあります。
自分しか関与しないというのは気軽ですが、不備があっても誰にも気づいてもらえません。
せっかく書いた遺言が法的に無効になってしまったとしたら、残念どころか取り返しがつきません。
また、公正証書遺言と違いバックアップがありませんので、紛失や偽造・変造があった場合に、せっかく書いた遺言の効力を保持することが難しくなってしまいます。
そしてごくまれに、公正証書遺言ではないという理由で、金融機関から遺言どおりの引き出しに応じることに難色を示されることがあり、結局相続人全員の関与が必要になったという話も耳にしたことがあります。
公正証書遺言では、公証人の関与があるため形式不備になってしまうおそれや偽造・変造のリスクが抑えられます。
また、公正証書遺言は、遺言の提出先において、自筆証書遺言よりも権威性・信頼性が強いということもあげられます。
一方で、作成には費用がかかったり、証人を2名用意する必要があるなどの一定の手続き負担があります。(専門家に依頼する場合は、証人はその事務所が用意することが多いです。)
【ワンポイント】
おすすめは、取り急ぎ保険的な意味合いで自筆証書遺言を書いておき、時期が来たら最終的には公正証書遺言を作成しておくことがよろしいかと思います。
次に、自筆証書遺言作成の大まかな流れを解説していきます。
これといった決まりはありませんが、だいたいこのような流れになります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
まずは、ご自身が所有している不動産、預貯金、株などの有価証券などをリストアップしてみることから始めましょう。
エクセルなどで預貯金の口座情報や金額、不動産の情報、株の銘柄や生命保険の情報、負債などを詳細に書いた【財産目録】を作成してみるのもおすすめです。
誰がどの財産を引き継ぐか、もしくはどのぐらいの割合で相続させるかという部分を決めていきます。
不動産や金融資産などの資産構成や、ご家族構成によっては、一番検討が必要な部分だと思います。
何故なら、自分との生前の関わり方や、相続する人の生活圏などによって、法定相続分どおりという訳にはいかないケースが多いからです。
その中でも、相続財産中に不動産がある場合は、法定相続分で分割し、共有地として相続してしまうと、土地の管理・処分が困難になることには注意が必要です。
また、相続税がかかることが予想される場合には、不動産だけを相続してしまうと相続税の納税ができないので、現金で納税資金を用意してあげることも重要です。
そしていよいよ本文の記載ですが、シンプルな遺言のテンプレートを参考に解説します。
このテンプレートのように財産ごとに相続する人を定める方法のほか、相続する割合を指定することもできます。
法定相続人以外の人にも財産を渡すことができるので、その場合は「遺贈する」と記載しましょう。
預貯金は金融機関名、口座番号までを記載し、金額を書かないことで残高の変更などがあっても書き直しが不要になります。
その他に、遺言で墓地や墓石の所有権を承継したり、祭祀を主催する人を指定することもできます。
その際に、付言事項までしっかり書くことが重要です。
付言事項というのは、法的な拘束力を持つ文章ではないので、遺言者が自由に記載できる部分です。
なぜこのような内容の遺言を書いたのかという説明や、家族に対するメッセージを送ることができます。
この付言事項をしっかり書くことで、相続トラブルを避ける効果があるのです。
MUFG相続研究所のレポートによれば、相続紛争の代表である遺留分侵害額請求に対して、約40%の人が「本人の意向が理解できれば」請求しないと答えています。
MUFG相続研究所:現代⽇本⼈の相続観〜相続に関する意識調査より〜
【ワンポイント解説】
自筆証書遺言は全文を自筆で書き、最後に「正確な日付」と「署名・捺印」が必要ですので、忘れずに記載してください。
完成した遺言は、相続人に預けておくか、自分で保管する場合でも相続人には保管場所を知らせておきましょう。なぜなら、「遺言があるはずだが、見つけられない。」「手続きが終わったあとに、遺言が出てきてしまった。」「何者かの手によって破棄された。」ということは意外にも多くあるからです。
公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管されるので心配ないのですが、自筆証書遺言を作成する場合には、遺言書を安全に保管することにも注意を払う必要があります。
また、遺言書がないと思ってした遺産分割協議のあとに遺言書が発見されると、混乱を招きます。
何故なら、あとから遺言書が発見された場合に遺産分割の効力を維持するには、相続人が遺言書の存在と遺言の内容を知ったうえで、改めて全員で遺産分割に合意する必要があるからです。
遺言書の保管については、遺言の作成を相談した専門家に依頼したり、法務局の自筆遺言書保管制度を利用することがおすすめです。
遺言での相続人の指定や、相続割合の指定は自由に定めて良いものの、トラブルを避けるためには、次のようなことに注意をする必要があります。
過激な内容とは、「あいつにはビタ一文あげない」「すべての財産を相続人以外にあげたい」というような、極端な内容のことです。
そのような過激な内容を実現しようとすると相続紛争のリスクが高まってしまいます。
相続財産中に容易に分割できない財産(例えば不動産など)が多く占める場合は、比較的分割しやすい預貯金等で調整して、遺留分相当額程度は相続人全員に分配してあげることが無難でしょう。
遺留分については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:遺留分の放棄は可能?遺留分を理解してトラブルのない円滑な相続を!
遺言書に預貯金を記載する場合は、口座情報を特定しましょう。
「預金」と記載しただけでは、相続の際にどこに預金口座があるかを相続人が調査しなければならず、口座の調査にはかなり労力がかかります。
預貯金の記載は、「金融機関名」「支店名」「口座の種類」や「口座番号」を特定して記載することがおすすめです。
一方で、「金額」についてまで特定してしまうと、トラブルのもとになることがあります。
預金や有価証券などの金融資産は流動性が高く、相続の際に必ずしもその数量が維持されていないことも多いからです。
また、相続の際に、遺言書に記載した数量を超える資産があった場合は、その増額分については遺言書の指定の効力が及ばないという可能性もあります。
同様の理由から、保有株数に変動のある上場株式などの記載とする場合は、「株数」まで特定せずに、「〇〇社の株式全部」のように記載することをおすすめします。
余りの財産というのは、遺言書で指定していない財産のことです。
遺言書は、まだ元気なうちに書くことが多いため将来的な自分の資産構成をすべて書き出すことには無理があります。
しかし、遺言書で指定していない財産があると、指定していない部分においては紛争の可能性や手続き負担を回避できないこととなり、遺言書の効果が半減してしまいます。
そこで、「本遺言書に記載のない財産については妻〇〇に相続させる」のように、余りの財産についての記載をすることが重要です。
遺言執行者とは、遺言に記載された内容を具体的に実現する役割を負う人のことです。
遺言執行者は、遺言書のなかで指定することができ、誰を指定しても問題ありません。
遺言書を書く場合には、内容だけではなく自分が万が一亡くなった場合の「遺言内容の実現」にも注意を払う必要があります。
なぜなら、相続が発生し、遺言書の内容を実現する手続きの段階では、相続人が負担すべき手続きの数は非常に多いからです。
その点、遺言執行者を指定しておけば、殆どの手続きで相続人の関与が不要になり、相続人の手続き負担が激減します。
特に預金口座が多い場合や、相続人以外の人に財産を渡す場合にも、遺言執行者が指定されていれば、手続きを円滑に進めることが可能です。
また、遺言書の内容が相続人の全員にとって望ましい内容ではない場合も多いと思います。そんな時は、遺言執行者を専門家のような第三者を指定することもできます。
せっかく書いた遺言書を無駄にしないためにも、遺言書の中で遺言執行者の指定をすることも検討しましょう。
自分一人で完結することができる自筆証書遺言ですが、専門家に相談しながら自筆証書遺言を完成させることができます。
少し費用をかける分、費用をかけるだけのメリットがあります。
自筆証書遺言は、シンプルに書くこと自体は手軽なのですが、遺留分、寄与分、特別受益などを本気で検討すると、かなり奥が深くなってしまいます。
そのような細部までしっかり検討した遺言書を作成できることが専門家に相談するメリットです。
せっかく遺言書を作成しても、形式不備や内容に問題があるために遺言が無効になってしまう場合があります。
公正証書遺言では公証人が遺言の形式不備をチェックしますが、自分一人で自筆証書遺言を完結した場合は誰のチェックもありません。その点、自筆証書遺言のサポートを専門家に依頼した場合は、その専門家が遺言の形式をチェックしますので安心です。
最近では、遺言書の文案のチェックだけを専門家に依頼できる場合もありますので、おすすめです。
また、「定期預金」と「普通預金」などのほんの小さな書き間違いが、長期間裁判で争われた事例もあります。
このように形式だけではなく、表現内容についての問題点についても専門家がチェックすることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
遺言書の効力はあくまで自分が亡くなってから効果を発揮するものなので、「生前に判断能力を失うリスク(=資産凍結リスク)」への対策がすっぽり抜け落ちてしまっています。専門家が検討する場合は、認知症対策と相続対策をセットで考えますので、家族信託や任意後見と言った認知症対策も一緒に検討します。
関連記事:認知症で親の口座が凍結!?家族でできる対策5選
さて、それでは今回の記事をまとめます。
・自筆証書遺言は、誰でも気軽に書くことができ非常におすすめ
・最終的には、公正証書遺言を作成することがおすすめ
・遺言書文案の最終チェックだけでも専門家に依頼すると安心
・本気で相続対策をするなら、遺言以外の検討を含めて専門家への相談がおすすめ
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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