2021.10.14

家族信託をするときに遺留分は考えなくていい!?

自分の相続の際には、相続人同士で争ったりしないように、なるべく公平感のある方法で財産を分けたいものですよね。一方で、「特別に面倒を見てもらった相続人に、多くの財産を引き継いでもらいたい」とか「非行に走った子に財産を相続させたくない」ということもあろうかと思います。

しかし、例えば相続させたくない人が法定相続人の中にいるからといって、あまりに不平等な遺言を書いても、遺留分制度によって一定の成約を受けるのが現行法のルールです。今回は、家族信託をする場合でも、遺留分を考慮する必要があるのか?がテーマです。

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そもそも遺留分とは?

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人に対して、遺言などによっても奪うことのできない最低限保証されている相続の割合のことをいいます。

原則は、自分の財産の承継者は遺言などにより自由に定めることができますが、遺族の権利を保証するために一定の制約が設けられています。これが遺留分の制度です。

配偶者、子、両親などが遺留分を有しますが、兄弟姉妹は遺留分を有しません。

遺留分の相続財産に対する割合は、以下のとおりです。  
①配偶者のみが相続人の場合 相続財産の2分の1  
②子のみが相続人の場合 相続財産の2分の1  
③直系尊属のみが相続人の場合 相続財産の3分の1

この相続財産に対する遺留分に、自分の法定相続割合を乗じた金額が、その人の遺留分(最低限の金額)というように、各相続人の遺留分を算出することができます。

遺留分に反した相続は、無効というわけではなく、遺留分権利者が遺留分を請求するまでは有効に成立します。

家族信託の信託財産は相続財産といえるか?

そもそも、遺留分の制約があるのは、「相続財産」についてです。

しかし、家族信託の信託財産は、相続財産に含まれないことから、財産凍結や遺産分割の対象にならないことが家族信託のメリットだったはずです。

では何故、遺留分に関しては、他の相続財産と同様の成約を受ける可能性があるのでしょうか?

これを説明するには、みなし相続財産というものにふれる必要があります。

みなし相続財産って?

みなし相続財産とは、民法上は、相続や遺贈で取得したものではないけれど、相続税法上は相続財産として扱う財産のことです。遺産分割は必要ないけれども、一部に相続税が課税されるなどの特徴があり、家族信託の信託財産や受益権はこれにあたります。その他には以下のようなものがあります。

・生命保険金

・死亡退職金

・3年以内の贈与

判例ではなんといっている?

このみなし相続財産が、通常の相続財産と同じように遺留分規定の対象となるかについて、裁判所は以下のような判例で見解を示しています。

・「生命保険の場合」最判平成16年10月29日

生命保険金は、原則として遺産分割協議や遺留分の対象とはならない。ただし、あまりにも他の相続人と不公平になる場合には例外的に持戻しの対象となる(つまり、通常の相続財産と同様の扱いとなり、遺留分の対象となる)」ということが判示された判例です。

・「家族信託の場合」平成30年9月12日東京地裁判決

この判例は、売れも貸せもしない不動産の受益権(つまり、経済的な価値がない)を相続させることで、一見して遺留分の規定に反していない状態を作っても、「遺留分の規定を潜脱する目的でした家族信託契約は無効だよ」と判示したケースなので、信託財産が遺留分制度の対象になることを明言したものではないですが、裁判所は、家族信託を遺留分潜脱目的では使えないことを示唆していると理解することができます。

いずれにしても、遺留分制度を潜脱する目的で生命保険や家族信託を活用しても、結果として相続人間の不公平さが、公序良俗に照らして、許容できないレベルに達しているときは、一定の成約を受けることになりそうです。

つまり、現段階では家族信託の信託財産の帰属について、「遺留分侵害額請求の対象になる」と考えておいたほうが無難だといえます。

どんな遺留分対策が有効か?

とはいっても、家族信託や遺言による遺産の承継を、特定の相続人の遺留分を超えて設計したい場合は、遺留分権利者からの請求があるまでは有効であるという性質をふまえて、遺留分侵害請求に応えるだけの現金を備えておくことが有効です。

遺留分請求に現金で備える方法

遺留分権利者から遺留分の侵害請求を受けた相続人は、遺留分相当の金銭を支払う必要があるため、請求を受けても金銭での支払いができるように、生前贈与や生命保険を活用して、現金を残してあげることが対策として考えられます。

生前贈与であれば年間110万円まで、生命保険であれば「500万円×法定相続人の数」までは非課税で現金を渡してあげることができます。

感情面の配慮が一番重要かも

遺留分の請求の問題になるケースでは、ほとんどの場合が相続で揉めているケースです。であれば、そもそも揉めないようにするという感情面でのケアも大変重要です。

遺言に付言事項を遺す

遺言書には、「付言事項」といって、補足的な内容を自由に記載することができます。

遺言者本人の気持ちや、相続割合を決めた理由や経緯を書いておくことで、相続人達の納得感が全然違ってきます。

例えば、「家族でよく話し合い、助け合うこと」「お母さんを大切にしてほしい」などの気持ちを表すメッセージや、「介護などで特に面倒を見てもらった長男には、より多くの財産を引き継いでほしい」など、遺産の分割割合を決めた経緯についても書き残しておくことが効果的です。

その内容を見て、相続人間での争いを避けようという気持ちから、遺留分請求を思いとどまってくれるかもしれません。

事前に家族で話し合っておく

また、あらかじめ家族で将来の相続について話し合っておくことで、相続分について揉めたり、遺留分を主張したりといったことを抑制する効果が期待できます。

しかしながら、8割以上の家族が相続について話し合えていないのが実情です。

引用「遺贈に関する意識調査結果について – 日本財団」をもとに作成

まとめ

☑家族信託は「みなし相続財産」であり、民法上は相続財産ではないが、相続税法上は相続財産とされる。

☑家族信託は、生命保険と同様、遺留分侵害額請求の対象となる可能性がある

☑遺留分対策には生命保険や贈与を使って、現金を備えておくことが重要

☑感情面への配慮が有効

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