2021.08.16

成年後見人について知っておくべき7つのこと

「今焦って認知症対策に取り組まなくても、いざとなったら成年後見制度があるから大丈夫」

そんな声を聞くことがあります。

そもそも、なぜ認知症対策が必要なのでしょうか?

その理由は、認知症などで判断能力が低下してしまうと、法律上、財産の管理処分などの法律行為が有効にできなくなってしまうからです。

【民法第3条の2】

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

具体的には、金融機関窓口で預金を引き出したり定期預金を解約したり、不動産の売却などができなくなるといったような事態が起こります。

そうなってから、財産の管理処分を必要とする場合は「成年後見制度」を利用するしかないのですが、成年後見制度にはデメリットが多いというのも事実です。

その結果、2020年現在において、成年後見制度を利用している人は約23万人に過ぎず、潜在的な後見ニーズ(判断能力が不十分とみられる人の総数:推計およそ1000万人)のわずか2%を満たしているに過ぎません。(出典:「成年後見制度の現状」)

では、成年後見にはどのような問題点・デメリットがあるのかを、見ていきましょう。

 後見人に家族がなれるとは限らない

まず、子どもが「私が親の成年後見人になります」と申し立てたとしても、なれるとは限りません。

その可否は家庭裁判所の判断に委ねられます。申立て全体の70%程度は、専門職後見人(弁護士や司法書士など)が選ばれています。

「普通、後見人は子どもがなるのでは?」

と思われているかもしれません。2006年頃まではそうでした(※1)。

しかし現在は、相次ぐ後見人による横領を防止するため、専門職後見人が選ばれる割合が高くなっているのが現状です。

その割合は近年増大しており、専門職後見人が選ばれる割合は全体の70%です。一方、子どもがなる割合は11%程です。(出典:「成年後見の現状」)

また、子どもが後見人になれたとしても、成年後見人を監督する成年後見監督人(弁護士や司法書士など)が付くことがほとんどです。


 第三者である専門職が介入し、継続的にお金がかかる

後見人は家庭裁判所が選任します。選ばれる後見人の7割が、ご家族ではなく、弁護士や司法書士などの専門職と呼ばれる第三者です。成年後見開始以降の財産はその成年後見人の管理下に置かれ、家族であっても財産管理に関与できなくなってしまいます。

そしてさらに、専門職後見人や成年後見監督人には、報酬が発生します。

その額なんと年間で24万円~72万円です。

管理する財産が1000万を超える場合は倍の48万円5000万円を超える場合は3倍の72万円です。(出典:「成年後見人等の報酬額のめやす」)

これを基本的には、ご本人が亡くなるまで支払い続けます。(後述するとおり、成年後見は途中でやめられない為)

また専門職後見人が選任されると、親の財産はすべて専門職後見人の手に委ねられ、1か月に必要な費用だけが与えられる形になります。

それ以外の費用は、いちいち「〇〇のためにお金が必要です」とお伺いを立てて、支払いを認めてもらわなければならなくなります。

では、専門職後見人や成年後見監督人があなたと相性の悪い人だったらどうでしょうか?

結論から言えば、我慢するしかないのです。

「この制度の利用はキャンセルします」「成年後見監督人が就くのを拒否します」などの主張は、認められません

 後見人は専門職だから安心か?

後見人を専門家に任せておけば、必ずしも安心できるとは言えません。

調査によれば「弁護士や司法書士といった専門職の後見人が横領などを行った件数」は2015年は37件と過去最悪でした。

任せっきりにしておくというのも考えモノです。

 親族が後見人になると、事務作業に追われる

仮に、家族が後見人になれたとしても、後悔することになるかもしれません。

後見人は、年に1回家庭裁判所に「後見事務に関する報告書」を提出しなくてはいけません。

親の財産から支払ったものは、なんでも1円単位で記録しておき、領収書などはすべて保管しなくてはいけません。

日中お仕事をしながら、お子さんの世話をしながら、家事をこなしながらの後見事務は、かなり負担の大きい作業となるでしょう。

 本人の意思が尊重されないかもしれない

成年後見制度の掲げる基本理念は

「自己決定権の尊重」
「残存能力の活用」
「ノーマライゼーション」

の3つです。

つまり、本人の意思・能力をできる限り活用し、その意思・能力を尊重していこうというものです。

しかし、家庭裁判所は、「本人の意思に基づくこと」であっても「本人の意思とは立証できない」のであれば、認めてくれません。

例えば、配偶者に相続があった場合などに、二次相続対策の関係で「自分は相続せずに子どもたちに」と元気なうちに決めてあったとしても、本人が遺言や家族信託、生前贈与等を活用して生前対策をしていない場合、成年後見人が介入し、法定相続分で分配することになります。

なぜなら、肝心の本人は認知症等で、もはや意思表示が出来ないか、出来てもそれが本当に心から思っての事なのかは、第三者である弁護士や司法書士、裁判所には解らないからです。

例えば、本人に後見人がついた後に、相続人の一人が、「以前は私に全財産を生前贈与してくれると言っていた!」と後見人である弁護士や司法書士に主張したとしても、その主張は通らないでしょう。

 親の財産が自由に使えるわけじゃない

後見人になったからと言って、親の財産を、子どもがある程度は自由に管理できるのかというと、そうではありません。

後見人の仕事は被後見人の財産を”守る”ことであって、親の財産を勝手に使えるわけではありません。

そのため、例えば、親が元気なうちに家族で話し合っていた相続税対策も一切できません。

年間110万円まで贈与税のかからない生前贈与である「暦年贈与」などは、後見人からストップがかかるでしょうし、教育資金贈与や住宅取得資金贈与も、たとえ本人が心から望んでいたのだとしても、成年後見人がついてしまった後では実行することが難しいと考えたほうが無難でしょう。

 成年後見は途中でやめられない

そして、実は成年後見制度、一度スタートすると本人の判断能力が回復しない限りは続ける義務があります。

つまり、成年後見は原則、本人が亡くなるまで続くのです。(認知症等の状況が快復すれば終了することになりますが、現実的ではないでしょう。)

専門職が成年後見人になるケースでは、後見が続く限り報酬を支払うことになり、期間が長期的になることが多い成年後見では、結果的に大きな費用負担となってしまいます。

さらに、財産を家族の判断で管理・処分していくことができないという状態が、長期的に続いてしまうことも大きなデメリットです。


 まとめ

いかがだったでしょうか。

「いざとなったら成年後見を申し立てれば良い」と、安易に考えることができないことが分かって頂けたかと思います。

そんな中、「家族でもっと柔軟に財産管理ができないの?」という要請にこたえるために『家族信託』が注目を集めているのです。

>>家族信託って何?

「まだ元気だから大丈夫」「親と認知症になったあとのことや、財産のことなど話すのは気がひける」といった感想を持たれるかもしれませんが、いざ認知症になってしまうとできる事が本当に限られてしまいます。

ご本人が元気なうちであればとれる対策がたくさんあります。「家族が高齢になってきた」「最近、物忘れが多いな」と感じたら、様々なリスクを想定し、法律の各制度を組み合わせて上手に生前・相続対策をしておくことが、本当に有効なのです。

>>よくある質問はこちら

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