家族信託は「認知症対策のためだけの制度」「一部の限られた人だけが利用する制度」とお考えではないですか?
実は、それだけではないのです。
本記事では、家族信託がどんな場面でどんな効果があるのか、認知症対策以外に絞ってご紹介いたします。
家族信託の仕組みや具体的な手続きの流れについては他の記事を参考にしてください。
目次
家族信託は、二次相続を想定した相続対策として有効です。
相続(遺産分割)の方法の指定としては、遺言書があります。
ですが、遺言書ではご本人(被相続人)が亡くなった時点での相続についてしか指定できません。
なので、相続人の方が亡くなった時の相続に関しては指定できないのです。
例えば、被相続人の方が長男に財産を相続させたいが、長男の死後、長男の配偶者には相続させたくない、といった事情があっても遺言書では実現不可能です。
子どもが最近再婚したのはいいが、再婚相手が日本に居住していない外国人で・・・
といったケースでご相談をいただくこともあります。
家族信託は、ご本人(委託者)が死亡したら受益者を長男にして、長男の死後は次男を受益者とするように契約の中で定められます。
このように、個別の事情に合わせて相続の仕組みを柔軟に作れる点が、家族信託のメリットの一つです。
不動産会社の広告に、「共有持ち分だけ買い取ります!」というフレーズを見かけたことはありませんか?
それだけ、共有持ち分の問題を抱えている方が多いのです。
例えば、マンションの所有者が亡くなって、子ども3人が相続して、それぞれ3分の1の共有持ち分を取得したとします。
将来的に、共有者のうちの1人が「マンションを売却したい」と言い出した時、「共有者全員の同意」がないと売却はできません。
売買契約の際には共有者が立ち会うのが通常ですし、立ち会えないとすれば第三者に委任することもあります。
売却のほか、建て替え・大規模修繕を行う際も同様に全員の同意を要します。
従って以下のようなリスクが生じます。
共有者のうちの1人が認知症になる。
認知症になってしまった共有者は、自分の意思で売買契約を締結できません。
共有者が亡くなっており持ち分が相続され、共有者が増える。
共有者が増えれば増えるほど、全員の同意をとることが困難になります。
共有者が仲が悪くなる。疎遠になる。
マンションを相続した時は仲が良かった共有者でも、その後事情が変わるかもしれません。共有者の意見がまとまらないと、不動産管理に必要な手続きが進まなくなってしまいます。
こうなると、将来マンションが老朽化してもスムーズな対策を実行できないといった問題が生じます。
マンションの持ち分を相続人間で売買する方法もありますが、持ち分を買い取る為のまとまった資金が必要ですし、そんな売買について融資をしてくれる金融機関はあまりありません。
あっても金利が高く期間も短くなる傾向があるので、負担は大きいです。
そこで、家族信託を利用すると、マンションの収益は持分に応じて分配しつつ、管理処分の決定権限のみを1人に集約できます。
受託者に名義が形式的に移りますが、この際贈与税はかかりません。
具体的には、共有者の内一人が、他の共有者から信託を受けるという契約をかわします。
これにより名義は一人にまとまりますので、その後の意思決定は受託者のみで完結します。よって、上記に掲げたような共有ならではのリスクを回避することが出来ます。
もしくは、一棟マンションを保有する父が、長男と信託契約を結びます。
子は長男と次男の二人です。父の死亡では信託契約は終わらず、長男と次男が受益権を取得するように設計します。
お判りでしょうか?実はこうすることで、将来の共有対策になっているのです。
つまり、意思決定は長男のみが行いますが、収益は長男と次男に分配する仕組みになっているのです。
この物件を、売りたいと思ったら長男のみの意思決定で売却をすることが出来ます(もちろん、善管注意義務・忠実義務がありますので適切な時期に適切な金額である必要はありますが。)。
信託によって不動産の名義が移ると登録免許税という税金がかかります。土地であれば固定資産評価額の0.3%、建物は0.4%なので、最大で55%かかる贈与税と比べて負担が少なくて済みます。
共有不動産の対策にも家族信託が有効ですので、お困りの方は家族信託の専門家へご相談ください。
不動産取引のプロでもある司法書士であれば、親族間贈与と家族信託を利用した場合と比較検討できるので、家族全員が納得できる形で決定できます。
いわゆる、「親の亡きあと問題」です。
例えば、障がいをもっている子どもと同居していて、親の死後の金銭管理に不安があるご家庭があるとします。
子どもが安定した生活を送るために、一定の額の金銭を定期的にわたしたい。
今住んでいる自宅で生活してもらい、必要があれば自宅を売却して、施設入所・その後の生活資金にしたい。
という想いがあったときに、家族信託による対策が有効です
ご家族のうちのどなたかが受託者となり財産を管理し、障がいのある子どもを受益者と定めておけば生活資金を確保できます。受託者に受益者の面倒を見てもらい、その後の財産の承継先を受託者や受託者の配偶者に指定するといった柔軟な設計も可能となります。
障がいをもった子の生活を守るため、家族信託と後見制度を併用したケースも別の記事でご紹介していますので参考にしてください。
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自宅については、自宅での生活が受益者(障がいをもった子ども)にとって困難となった場合に売却ができるなどと指定をしておき、施設入所が必要になった際の対策も行えます。
万が一受託者が亡くなった際の、次の受託者も定めておけますので、信託契約が長期にわたったとしても安心していただけます。
以上から、親なき後の子どもの生活保障にも信託が十分に対応できます。
似たような問題解決の手段として、金融機関の信託サービスがあります。
金融機関が提供するサービス(商事信託)では行き届かない点も柔軟に契約設計できるのも家族信託の特徴です。
いかがでしたでしょうか。
認知症対策以外にも、家族信託を利用すべき場面をご紹介しました。ポイントは以下のとおりです。
現在共有不動産ももっている。
将来共有となる不動産をもっている。
財産の承継先を何代にもわたって指定したい。
障がいをもった家族がいる。
中でも、共有不動産の問題は、後になって表面化する問題でもあります。
相続などにより、親子で共有名義の不動産を持っているケースも少なくありません。
共有者が認知症になったり、共有者の数が増えてしまった後では不動産管理に支障をきたします。
そのため、できるだけ早く対策を考えた方が良いでしょう。大事なのは、状況に応じた信託設計をすることです。少しでも不安を感じたら、家族信託の専門家に相談しながら、ご家族と話し合って検討していきましょう。