2020.04.19

成年後見が「自己決定権の放棄」ともされてしまう理由

意思能力が減退したときに利用される後見制度ですが、

後見人の横領が多発したり、利用数の伸び悩むなど課題も多い制度です。

今回は、後見制度の大きな課題の1つである「自己決定権の尊重」についてご紹介いたします。

後見制度制定の背景

後見制度ができる前は、禁治産・準禁治産制度がありました。

従来の禁治産・準禁治産制度では、禁治産者と裁判所から宣告されると、その旨が戸籍へ記載され、禁治産者には選挙権すら認められていませんでした。

法定後見制度は、従来の禁治産・準禁治産制度が全面的に見直され、法改正によって新たに誕生した制度です。

それでも、最初は被後見人には選挙権が認められていませんでした。現在では信じられませんね。

被後見人となると、その利用者と後見内容に関する情報は、戸籍への記載ではなく、「後見登記に関する法律」(平成11・12・8、法律152号)に基づいて登記され、開示されることになりました。

後見制度の理念

この新しい成年後見制度は、平成12年4月1日にスタートしました。高齢化社会への対応、また福祉を充実させる観点から、次の3つの理念が掲げられています。

後見制度の理念 1、自己決定権の尊重

2、残存能力の活用

3、ノーマライゼーション

これらの理念実現のため、後見人等が本人の身上監護及び財産管理を行うにあたっては、本人の心身や生活の状況に配慮しなければなりません。

これを「身上配慮義務」といいます。

これら理念の中でも中心となるのは「自己決定の尊重」です。


「自己決定権の尊重」は、意思能力が低下した後でも、残された能力を活かして、本人が決定する(「残存能力の活用」)ことを、尊重するという理念です。

また、一人ひとりが、意思思能力が低下した後の生活について、事前に、自分で決めておくことを尊重する、ということも含んでいます。

自己決定権

自己決定権とは,個人が公権力の干渉や介入なしに私的事項を決定できる自由とされています。

自己決定権は1980 年代から注目を浴びるようになり、近年では自己決定権は新しい人権として認識されています。 

自己決定権は、具体的にどの法律でどんな権利を保障する、という規定はありませんが、自分のことは自分で決めて生きていく、人格生存に不可欠な基本的な権利といえます。

さて、ここでで皆様に考えていただきたいと思います。後見制度は本当に「自己決定権を尊重」できているでしょうか。

後見制度は大きく分けて2つに分かれます。任意後見と、法定後見です。

任意後見制度

任意後見制度は、意思能力(=判断能 力)が十分備わっているうちに、本人が任意後見人を選び、自分の将来の生活にかかわって委任する内容を、「任意後見契約書」として、公正証書によって作成しておく制度です。

ポイントは2つです。

任意後見制度のポイント ①本人が任意後見人を選任する

②受任者と契約を締結してどの範囲で支援を受けるかを決定する。

本人が元気なうちに、委任する事務の範囲・内容は幅広く選択することができます。


なので、任意後見制度は「自己決定の尊重」の理念が、 最もストレートに具体化された素晴らしい制度と言えます。

実はこの任意後見、利用されている件数が非常に少ないのですが、下記の「法定後見」と比べると費用の負担も若干抑えることが出来ますし、何より「自分のことは自分で決める」という自己決定権も反映できるため、我々専門家からの目線では、必ず検討すべき一押しの認知症対策なのです。

法定後見制度

一方、法定後見制度は、本人の意思能力(判断能力) が低下した後に、本人その他の申立て権者の申立てにより、家庭裁判所が開始の審判をして法定後見人等を選任する制度です。

法定後見人等には、家庭裁判所から同意権・ 取消権、代理権を与えられます。

選ばれた法定後見人等は、本人の希望を尊重しながら、財産管理や身の回りのお手伝いをします。

なお、法定後見人「等」と申し上げているのは、実は後見制度はご本人の判断能力の程度によって、家庭裁判所が、本人の判断能力を次のような3つに類型して、補助・保佐・後見人を選任するからなのです。詳しくは、以下の表をご参照ください。

信託設計


 判断能力が不十分である。(補助)

 判断能力が著しく不十分である。(保佐)

 ほとんど判断することができない。(成年後見)

民法13条1項に規定される法律行為
①元本を領収し、又はこれを利用する こと
②借財又は保証をすること
③不動産又 は重要な財産を売買したりすること
④訴訟行 為をすること
⑤贈与、和解又は仲裁契約をす ること
⑥相続の承認もしくは放棄、又は遺産 分割をすること
⑦贈与もしくは遺贈を拒否し、 負担付贈与もしくは遺贈を受諾すること
⑧新 築、改築、増築又は大修繕をすること
⑨建物 については3年、土地については5年を超える期 間の賃貸借をすること、

法定後見制度の問題点

①そもそも必要のない方が大多数である

最高裁判所が公表している「成年後見事件の概況」によると、2019年における3 類型ごとの件数は、後見25,172 件、保佐6,372 件、補助1,825 件となっており、補助の割合は約5%にすぎず、後見の割合が大半(80%以上)を占めています。

(参考:成年後見関係事件の概況

後見類型は、「精神上の障害により,事理を弁識する能力を欠く常況にある。」と いうことが開始の要件なのですが、多くのケースでは、ご本人の判断能力が大きく減退した後に、必要に駆られて後見制度の利用申立を裁判所にしたということになります。少し考えてみてください。

認知症の患者様は、日本全国に何百万人といらっしゃるのに、年間2万件とちょっとしか申立がないということは、「必要が無ければ利用しなくても何とかなる」ということなのです。それでは、「必要な人」とはどのような人でしょうか。

それは、本人の判断能力が失われた後に、「預貯金等の解約(特に大口の定期預金)」「多額の振込(介護施設入所一時金など)」「不動産の売却」などの財産の処分行為が必要になった方たちです。

上記に掲げるような行為をするときには、犯罪による収益移転防止法に基づいて「本人確認・意思確認」を求められますが、判断能力が低下した方では、銀行や不動産会社・司法書士や弁護士等のする「意思確認」には耐えることが出来ません。

そうすると、「本人の意志があるか確認できない」ということになり、本人の代わりに意志決定をするために、法定後見を申立てるしか選択肢が遺されないのです。

以上に述べたように、大半の方には最後まで無関係な話ですから、あまり知られていませんが、本人の判断能力が大きく減退した後に、財産の処分や解約・移動をされる場合は要注意です。

②裁判所が選任する後見人の過大な権限

現行の法定後見制度では、判断能力が衰えてしまった成年被後見人は「単独で法律行為をする」ことができません。

日用品の購入などを覗いては、後見人が契約等の行為を行います(法定代理人という立ち位置です)。

そして後見人には、包括的な財産の管理処分権限が付与されます。「包括的な財産の管理処分権」とは、要するに、「後見人が、本人の財産を自分の名前で処分できてしまう状態」ということです。

自分の財産とほぼイコールの状態になります(後見人のものではありませんが、所有者と同等の事が出来てしまいます)。これは少々過大な権限ともいえますよね。

そんな大きな権限を持った後見人が、時に権限を濫用し、本人の財産を侵害してしまうのは皮肉としか言いようがありません。

そんな強力な権限を持った成年後見人ですが、実は70%以上のケースで司法書士や弁護士等の家族以外の専門職が裁判所によって選任されています。

あなたは、ご自身の財産を、弁護士や司法書士に管理してほしいと思われますか?

もしも答えが「思わない」や「わからない」のであれば、法定後見にならないような対策を考えてみても良いかもしれません。

③経済合理性に偏った判断

さて、法定後見は、「本人の判断能力が低下した後」に利用する制度です。そのため、判断能力が低下する前に、本人がどのような希望を持っていたかを確認するすべはありません。

例えば、長男の長男(孫)がかわいくてかわいくて、ぜひとも共育資金贈与をしてあげたいと思っていたとします。

判断能力があるうちには普通に出来ることも、判断能力が失われ、法定後見の利用をはじめた後にはどうなると思いますか?

答えは、「本人がそのような希望を持っていたかは確認するすべがない。よって、本人の財産を減少させるだけの贈与など、してはならない」という判断になります。

もし本当に本人がお孫さんの将来をより豊かなものにするために、贈与をしてあげたいと思っていたのだとすると、とても悲しいことですよね。

同じようなことが、住宅取得資金贈与や、暦年贈与など、あらゆる場面で当てはまります。

要するに、「本人の意思が確認できない以上、経済的な損得で物事を判断し進めるべきである」という考え方に服従をしなければならないのです。

これが、「自己決定権の放棄」と私たちが申し上げることの本質です。

あなたの築き上げた大切な資産を、あなたの本心に従った活用をしたいとは思いませんか?

法定後見を使うと、それはかなわない願望に過ぎなくなってしまうかもしれません。

もしもあなたが自己決定権を大切になさりたいのであれば、法定後見はあまりお勧めは出来ません。

まとめ

いかがだったでしょうか。何らの対策を講じることなく判断能力が衰えてしまった場合、(必要のない方も多いのは事実ですが)もしかしたらあなたも法定後見を利用せざるを得なくなるかもしれません。

その場合、上記に述べたように、「自分のことは自分で決める」というあなたの人としての尊厳が失われてしまう可能性すらあるのが現実です。

そのようなことにならないために、ご自身の想いや意思を、何らかの形で表明されてはいかがでしょうか?

それは、遺言かもしれませんし、任意後見契約や家族信託契約かもしれません。はたまた贈与契約(教育資金や住宅取得資金、暦年、おしどり等)や売買契約だってアリです。

あらゆる手段を複合的に検討し、法律面・税務面の両輪から最適な結論を導くためには、賢く専門家を利用するのも検討に値します。

司法書士リーガル・コンサルティング&パートナーは、上記のような生前対策のご相談をもっとも得意とする専門家集団です。初回は無料でご相談可能です。もしあなたがおひとりで結論を出すことが出来ないのであれば、一度ゆっくりお話をお聞かせください。

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