今回は、高齢になり軽い物忘れが気になってきたお父さんの財産について、今後の介護費用などで心配されているご家族からのご相談体験をご紹介いたします。
この記事は、次のような方におすすめです。
親が高齢になってきたけど、まだまだ元気だし介護や認知症対策は必要ない。
兄弟とも、親の介護について話し合ったことがない。
事前の対策なしでも、結局どうにかなると思っている。
我が家に認知症対策は必要ない、関係ないと思っていませんか?
そのまま放っておくと気付いた頃には取り返しのつかない事態になってしまいます。この記事を参考に、今のうちに考えて、話し合いを進めてみましょう。
※本記事は、他の様々な事例を織り交ぜて作成しております。個人の方の状況などをそのまま描写することはありません。予めご了承ください。
目次
ある日、相談者のAさんからメール相談を頂きました。
一人暮らしをしている74歳の父がおります。
まだ大きな病気もなく元気で、軽い物忘れがありますが、認知症との診断は出ていません。今後、父に介護か必要になったらどうするのか、話し合っていかなくてはならないと思っています。
日本は高齢化の一途を辿っており、近年このようなご相談をよく頂きます。
70歳を超えていて、物忘れが多くなったなどの異変が少しでもあれば、なるべくお早めに医療機関にご相談ください。
それと同時に、財産管理の対策や相続対策などを検討する必要があることも忘れてはなりません。
ただ、現状では、介護の役割分担、方法や費用はどうするのかなど、兄妹間でまだ何も決まっていません。兄は九州在住で妻子がおり、私(Aさん)は実家の近くに住んでいるため、もしものときには私(Aさん)が中心になって話を進めると思います。
兄も私(Aさん)も夫婦共働きで暮らしており、父の介護をする余裕はないと思われます。そのため、おそらく施設への入所か、介護サービスを利用することになりそうです。
このようなお悩みは増えていますが、まず第一にはお父さんが老後をどう過ごしたいと思っているのか、ご本人の意向を元気なうちに聞いてあげるのは大切なことです。
自宅に居たいのか、家族もしくは第三者に関わってほしいのか、しっかりと意思を確認しておきましょう。
また、お父さんの財産の使い途についても、家族みんなで話し合っておくことが重要です。
今最も心配なのはお金のことです。兄には高校生の子どもがいて、私も中学生と高校生の子どもがいます。まだまだ学費などが必要で、介護費用を負担できない状況です。
そこで、いざというときには父の財産で介護費用を捻出することが理想だと考えています。父は預貯金だけで5000万円ほどあるそうです。
しかしこのことについて、兄とじっくり話し合っていません。いざ父の預貯金から介護費用などを支払った後に、トラブルになるのではと不安です。
家族信託が認知症対策に有効だとテレビや雑誌で紹介されていたので、メールをしました。何か手だてはありますか。よろしくお願いします。
Aさんとはその後、タブレットを使ってのオンライン面談などを行い、後日改めて解決策を送りました。
お父さんとご兄妹とで話し合った上で、自分(Aさん)を受託者、父を委託者兼受益者として信託契約を締結しておくことを提案しました。
つまり、お父さんの銀行預金をお父さん自身の介護費用にあて、その預金の管理は自分(Aさん)が担当するという契約(約束)をお兄さんを交えてしておきます。
その際に「信託する金銭の使い道を明確にしておく」ことが重要です。
お父さんに介護が必要になったときにかかるお金を、なるべく細かくシミュレーションしておきましょう。
おおまかには、介護費、医療費、生活費などがあります。
「公益財団法人 生命保険文化センター」によって行われた平成30年度「生命保険に関する全国実態調査」によれば、在宅介護を始める際にかかる一般的な費用の平均は一時的にかかる費用が約69万円、継続的にかかる月額費用の平均は約7.8万円ということです。
介護費用や医療費はその時の状況や人によって変わりますが、参考にはなると思います。
こういった情報を参考にしながら、信託する金額が、将来予定される介護費用を賄えるくらいに設定しましょう。
次に、信託する金銭を管理するための口座(信託口口座もしくは信託専用口座)を開設します。
この信託口口座は、受託者Aさんの名義で開設することになります。
開設できたら、そこに信託する金銭をお父さんから信託契約と同持に振り込んでもらいましょう。
これによって、Aさんは父に介護費・医療費・生活費などが必要となった際、受託者であるAさん名義の信託口口座からその費用を捻出することができるようになります。
ちなみに家族信託においては、預金口座の名義は受託者のAさんでも、税務上はお父さんの預金と判断します。その結果、贈与税が課税されることはありません。
しかし、何の記録もなく、自分(Aさん)の判断だけで費用を管理するのは、後日トラブルになるリスクがあることから、非常に危険です。
他の家族から「信託財産を自分のために使い込んでいるんじゃないか?」と疑われてしまうかもしれません。ですので、何に使ったかを明確にするために領収書を保管しておき、通帳を記帳して出金の記録をつけておくことをおすすめします。
今回の家族信託は、お父さんが亡くなったときに信託が終了となります。その際に、信託口口座には残ったお金があると思います。これについて何も定めていなければ、協議のうえ相続人間で分けることになるでしょう。しかし、家族信託ではその残った財産の行先も決めておけるので、是非活用することをおすすめしました。
お父さんが亡くなったときは、予め家族信託契約の中で定めておいたルール通りに残った財産をご兄弟の口座へ振り込みます。このとき、残金の総額と、誰がいくら取得したのかをきちんと記録して書面にし、各相続人で保管しておくことで後々のトラブルを防げます。
受託者Aさんには帳簿作成の義務もあります。
なので、信託期間中の介護費用・残金の処理はできる限り書面に残しておきましょう。そうすることで、後日関係者の間でおかしな疑念を生むことなく、平和な家族信託の運用が望めます。
家族信託の手続きを終え、しばらく経ったある日、Aさんからまたメールが届きました。
家族信託の手続きから、数か月もしないうちに、父が突然脳梗塞で倒れました。
一命はとりとめましたが、1ヵ月の入院生活ののち、認知症が悪化し介護が必要になりました。
私(Aさん)も兄も、やはり父の介護に専念するのは厳しい状況でした。話し合った末、父は介護施設へ入所することになりました。
その際の施設費などの費用は、信託口口座から捻出することができたので、大変助かりました。
施設に入って1年ほどで、お父さんは亡くなりました。
最近、ようやく色々な手続きが片付きました。
資金面に関しては、信託をしておいたおかげで、大きな問題はありませんでした。
私は、金銭の使い道もきちんと記録しておき、兄にも報告していたので、兄も安心して管理を任せてくれていたように思います。
父の死後、残りの預貯金は、信託契約で決めておいた通りに兄と等分して分けました。トラブルなどは一切ありませんでした。
父の介護が必要になったときには、私も兄も学費や仕送りなどの出費が予想以上にかさみ、介護費用を負担する余裕もありませんでした。
もしかすると、事情によってはもっと厳しい状況だったかもしれません。
あの時、まだ大丈夫と甘く構えることなく、相談をして、信託をしておいて本当に良かったと思いました。
ありがとうございました。
―――――――――――Aより