2022.08.05

これだけ読めばわかる!成年後見制度の手続や費用と今後の展開

ご自身やご家族の年齢が高齢になり、いつかは成年後見制度の利用を検討しなくてはならないのかと、お悩みの方も多いのではないでしょうか?

成年後見制度は、判断能力が不十分な人の財産を守るための制度です。成年後見が開始されると、判断能力が不十分な本人の代わりに、「本人の生活に関する法律行為」や「財産の管理」を、後見人になった人が行います。

この制度には法定後見制度任意後見制度の2種類があります。それぞれの特徴や、手続きの流れなどをおさえて、今後ご家族の財産管理対策の参考にしてください。

どんな場合に、成年後見が必要になるの?

成年後見制度は、判断能力が不十分な人が次のような行為を行う場合に必要になります。

・銀行や証券会社での手続きを行う

・不動産の賃貸契約や売買契約を行う

・相続人として遺産分割協議に参加する

・介護施設や介護サービスの契約をする

その他に、詐欺などの被害を防止したり、身近な人の財産使い込みなどを防止したい場合に利用を検討します。

法定後見ってどんな制度?

成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類がありますが、

まずは、法定後見制度のほうから説明します。

法定後見の特徴

本人の判断能力が不十分になってから利用可能。

後見人は家庭裁判所が選任します。

法定後見のメリット・デメリット

メリット

・本人が不当な契約をしてしまっても、後見人によって取り消すことができる。

・不動産や預貯金等の財産を後見人が管理するため、身近な人の財産の使い込みなどが予防できる

・本人の生活に必要な契約(例えば、介護サービスや施設入所に関する契約)を後見人に代理してもらえる。

デメリット

・家族の財産管理に裁判所が関与する

・一時利用ができず、本人が亡くなるまで辞められない

・長期的な費用負担になる

・親族が後見人になれる可能性が低い

成年後見制度の注意点についてはこちら⇒ 関連記事:成年後見人について知っておくべき7つのこと

法定後見は今後どう変わる?

厚生労働省の専門家会議は、成年後見制度の利用を促進する2022年度からの5カ年計画案を示し、下記のデメリットに対し制度の改正を検討しています。

・一時利用ができず、本人が亡くなるまで辞められない

・親族が後見人になれる可能性が低い

しかし、本改正は長期的な課題であり今すぐに改善されることはないでしょう。

法定後見の費用と手続きの流れ

続いて、実際に法定後見開始の申立を行う場合に、どのような書類・手続きが必要になり、どれぐらい費用がかかるのかを説明します。

法定後見の必要書類や費用

所定の申立書を記入し[財産目録][親族関係説明図][医師の診断書][ご本人の戸籍等の公文書]など、その他様々な書類とともに、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。

手数料は1万円から2万円程度ですが、まれに裁判所が本人の状態について慎重に判断するため、医師に鑑定を依頼するケースがあります。その場合は、別途5万円〜10万円の鑑定料がかかります。

法定後見の手続きの流れ

時期にもよりけりですが、申立から最終的な審判にいたるまで、次のような流れで進行し、だいたい1〜3ヶ月程度の期間を要します。

①申し立て

申立は、本人、配偶者、4親等内の親族などがすることができます。その他にも市町村長や検察官も申し立てることができます。

②裁判所の調査等

・家庭裁判所の面接

家庭裁判所では、申立書類に係わる状況をより詳細に把握するために、申立人や後見人候補者の面接が行われます。

この面接の予約は、時期によっては2週間〜2ヶ月先でしか予約が取れないことがありますので、申請書一式を提出する前に、あらかじめ面接の予約を取っておくことがおすすめです。

ただし、予約した面接日の1週間前までには申立書類一式を家庭裁判所へ提出しておかなければいけないので、書類準備の目処が立ってから、予約する日を決めるのが無難でしょう。

・他の親族の意向確認

裁判所は必要があると認めた場合は、他の親族に対して[今回の成年後見申し立てに対する意向]を確認する場合があります。

先程の医師への鑑定依頼も、この過程で行われます。

審理、審判

申立書類や必要書類を提出して調査が完了すると、家庭裁判所では審理が開始されます。審理とは、裁判官によって提出書類や本人の状況、調査で得た情報などを総合的に審査し、成年後見制度を開始するべきか否かの判断をすることです。

この審理のあと、[後見人の登記]といって、法務局に[成年後見の開始の事実]や[後見人が誰か?]といったことが登録され、後見人の職務が開始されます。

成年後見制度をサポートする制度

成年後見人等による適切な後見事務をサポートするために、こんな制度があります。

財産を管理する後見人の不正や横領などを防止する効果があります。

後見監督人の選任

予定されている後見事務が複雑である場合に、家庭裁判所は後見人の事務をサポートする弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職を後見監督人に選任します。

後見制度支援信託

後見制度支援信託とは、日常的な支払をするのに必要な預貯金を後見人が管理し、日常で使用しない預金を信託銀行等に信託する(預ける)制度です。

後見制度支援信託を利用すると,信託財産である金銭を払い戻したり,信託契約を解約したりするには、家庭裁判所の発行する指示書が必要となり、後見人が自由に引き出すことができなくなるので、後見人等の横領のリスクから財産を守ることができます。

(出典:裁判所|成年後見制度

任意後見ってどんな制度?

それでは、2種類の後見制度のうち、2つめの任意後見制度について解説していきます。

任意後見の特徴

本人の判断能力が不十分になる前に利用可能。

本人が判断能力があるうちに、あらかじめ後見人を指名する

親族やご友人等、成人であれば原則として誰でも成年後見人になれる

任意後見契約は、のちに説明しますが法定後見と比較してデメリットが少なく、元気なうちにやっておく施策として、おすすめできる対策だといえます。

任意後見のメリット・デメリット

メリット

・法定後見と同様のメリットがある

・後見人を誰にするか?どんな支援をしてもらうか?を自由に設計できる

・判断能力が低下したときに備えて、保険として活用できる

・後見報酬を定めなくとも良いので、費用負担が少ない(※ただし、殆どの場合は裁判所によって後見監督人に専門職が選任され、法定後見ほどではないですが報酬が発生します。)

デメリット

・法定後見と違い、本人がした契約をあとで取り消すことができない

・後見監督人をとおして、やはり裁判所の関与がある

任意後見の費用と手続きの流れ

続いて、実際に任意後見契約を行う場合に、どのような書類・手続きが必要になり、どれぐらい費用がかかるのかを説明します。

任意後見の必要書類や費用

任意後見は最初に[任意後見契約の文案][戸籍関係の書類][住民票や印鑑証明書]を用意して、任意の公証役場で手続きをします。

費用は次のような[公証役場へ支払う費用]がかかりますが、任意後見契約は専門知識がないと作成が難しく、専門家が作成することがほとんどです。その場合は、別途専門家の報酬がかかります。

【公証役場へ支払う費用】

・基本手数料    11,000円

・登記嘱託手数料    1,400円

・収入印紙代      2,600円

・その他実費      1,500円前後


    合計                       約16,500円

任意後見の手続きの流れ

①本人が財産管理等を頼みたい人を任意後見人と決める

②任意後見契約の内容(サポートしてほしい内容)を決める

③公証役場で公正証書を作成する/法務局で登記がされる

④その後、本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。 任意後見契約は、この任意後見監督人が選任されたときから効力が発生します。

※任意後見契約について、法律の枠組みを使いながら、あなたが実現したいことを契約書の文案に落とし込むには、深い法律知識を持っている専門家でないと難しいため、生前対策分野に力を入れている司法書士や弁護士などの専門家に相談することを強くおすすめします。

成年後見制度以外に財産管理の方法はないの?

今回は、成年後見制度について解説しましたが、まだ判断能力が十分にあるうちに

「大切な家族のために、相続税や相続争いの対策をしておきたい。」

「判断能力が心配になってしまっても、家族が困らないように準備をしたい。」

そう思われているのであれば、成年後見制度以外にもあなたの思いを実現する手段はあります。

家族信託を活用する

元気なうちにできる生前対策には任意後見契約のほかに、家族信託契約があります。

今後、成年後見制度はルールが改正され、現状よりも利用しやすくなることが予想されますが、まだまだ判断能力が十分なうちに家族信託契約をしておけば、そちらのほうがメリットが大きい場合が少なくありません。

家族信託の詳細についてはこちら⇒ 家族信託のメリット・デメリットは?イラストと動画で徹底解説

家族信託の関連記事⇒ 認知症の人でも家族信託を利用できる?判断能力の基準とは

遺言を作成しておくメリット

また、認知症対策だけではなく自分の相続財産(家族信託した場合は、信託しなかった財産)についての手当てをしておくことで、次のようなメリットがあります。

相続トラブル(いわゆる争続)を回避できる

相続開始時に遺言書がない場合は、相続人で話し合って遺産の分け方を決める遺産分割協議が必要です。この遺産分割協議において、意見がまとまらないことが、争いに発展してしまう原因となります。

しかし、本人が遺言書を作成していれば、原則、遺言に従って遺産分割が行われ、相続人間で争いに発展する余地がなくなります。

相続人の相続手続き負担を軽減できる

遺言書がない相続では、そもそも相続財産にどんな財産があるのかが相続人においてわからず、相続財産調査で苦労することが少なくありません。

しかし、遺言書を作成するタイミングで財産目録を作成していれば、相続人は遺産に何が含まれるのかをすぐに把握できるので、相続財産調査で苦労することがなくなります。

さらには、不動産の名義書換や銀行預金の払い戻しなどにおいて、遺言書があると遺言書がない場合と比較して、手続きを簡素化できることがあります。

渡したい人に自分の財産が渡せる

遺言書を作成していれば、誰が何を相続するのかを自分で決めることができ、相続人以外の人に財産を渡すことも可能になります。

一方で、遺言書がなければ遺産は相続人が相続するため、相続人ではない人は(例えお世話になった親族であっても)財産を受け取ることができません。遺言書を作成することで、渡したい人に自分の財産が渡せるというメリットがあります

まとめ

このように、成年後見制度やその他の生前対策制度について解説してきましたが、様々な法制度のメリットやデメリットを比較しながら、早め早めに総合的に判断し、複合的に対策をたてることで「家族が安心できて、自分も人生を謳歌することができる」という環境を整えることができます。

成年後見や遺言、家族信託に興味がある方は、ぜひ一度わたしたちにご相談してみてください。

最後に今回のポイントをまとめますので、もう一度ご確認ください。

 成年後見制度には[法定後見]と[任意後見]がある

 それぞれのメリット、デメリットをおさえておくことが重要

 今後、成年後見制度が改正され利用がしやすくなる可能性がある

 まだ判断能力が十分なうちであれば、成年後見以外にも有効な対策がある

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