先日、兵庫県で「弁護士が遺言書を偽造して遺産を依頼者に相続させようとした」というとんでもない事件が起こりました。
神戸地方裁判所は、「遺言書の社会的信用を大きく失墜させる悪質な犯行だ。被告は故人の遺志をかなえるために犯行に及んだと述べているが、法を犯すことに何ら正当性はなく、法律の専門家である弁護士として、主導的な役割を果たした」などとして、犯行に及んだ弁護士に対して、懲役2年、執行猶予4年を言い渡しました。
遺言書に法定相続人でない者の名前を記載し、遺産を受け取れるようにしようとした今回の事件ですが、遺言書の偽造はそうやすやすと成立してしまうのでしょうか。
遺言書の真偽について争われた事件として有名な例として、一澤帆布工業㈱の事業承継に絡む事件があります。
先代の一澤信夫氏が亡くなり、社長であった三男の信三郎氏夫妻に対して会社の持株の3分の2を相続させる旨の自筆の遺言書が開封されたあと、銀行勤めをしていた長男信太郎氏から、別の遺言書(長男信太郎氏に持株の大半を相続させる内容)が提出されました。つまり、「遺言書が2通あった」のです。
遺言書に書かれた内容が重複するときは、後に書かれた遺言書が有効とされます。三男信三郎氏が長男の提出した遺言書の無効を訴えて訴訟となり、一審では長男信太郎氏が提出した後に書かれた方の遺言書を「偽物であるとする十分な証拠はない」として、三男信三郎氏の訴えは退けられたのです。
ところが、なんとこの事件は最高裁まで進み、結局は信太郎の提出した「遺言書は偽物」として三男信三郎氏が勝訴という結果になりました。
第一審では「筆跡鑑定」が行われ「本物」と判断されたのですが、「一澤」という文字に拘りがあったのに、漢字が「一沢」の認印が使用されているという不自然な点などから、逆転判決が下されたのです。
しかしながら、いざ遺言書が偽造されてしまうと、それを見破るのは困難を極めるようです。
遺言書の偽造トラブルを招かないために、遺言書自体を自筆証書遺言ではなく公正証書遺言で作成しておくというのがベーシックな防止策です。
公正証書遺言は、遺言を残す本人と公正証書を作成する公証人、そして証人2人の立ち会いのもと公証役場で作成する遺言のことです。公証人は遺言者の本人確認を済ませてから公正証書の作成に取りかかります。
また、完成した遺言書の原本は公証役場で保管されるため、第三者による盗難・改ざんや紛失のリスクは極めて低いのです。
しかし、そんな公正証書遺言でも、後から半ば強引に別の遺言を書かせられたり、偽造された遺言書が発見されたりすれば、故人の遺志が覆されてしまうことも十分あり得ます。
そこで、家族信託を活用するという方法があります。家族信託には、本人の財産を家族に残す、遺言書と同じ機能があり、遺言代用型家族信託とも呼ばれています。
この家族信託では、遺言に比べて法的安定性に優れていることもメリットの一つです。遺言というのは『単独行為』と呼ばれるように遺言者1人が行うことのできるものです。そのため、一度遺言書を書いてもらったとしても、その後勝手に内容が変えられてしまったという事態も十分にあり得るのです。しかし、家族信託では、委託者と受託者による『契約行為』であるため、原則として1人で勝手に内容を変更することはできません。また、仮に信託契約を結んだ後に別の内容の遺言書が書かれたとしても、家族信託した財産には、遺言の効力が及ばないので安心できます。
もっと言えば、遺言書は本人が亡くならなければ効力が発生せず、生前の対策にはなりません。一方で、家族信託では本人が亡くなる前に、本人の財産管理を家族に託すことができるので、認知症による資産の凍結を回避できたり、成年後見制度を利用しなくて済んだりと、有効な生前対策になり得ます。また遺言書だけでは実現できない柔軟な財産承継も実現可能です。
遺言と家族信託は、併用することができ、場合によっては併用した方が良いケースもあります。
例えば、一部の財産だけを信託する場合や、実務上信託に適さない財産がある場合など、全ての財産について信託を設定することが適さない、又は、できない場合もあります。
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その場合は、信託しなかった財産での相続争いをさけるために、家族信託と遺言書を併用するメリットがあるのです。
・より確実に財産の承継について想いを残したい。
・できれば生前対策もしたい
そんな方は、家族信託の活用、または遺言と家族信託の併用がおすすめです。お悩みでしたらすぐにご相談ください。思わぬリスクや突然の不利益が降りかかる前に、円満な財産承継を実現しましょう。
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