預金の引き出しや財産の管理についての委任状を書いてもらってるから、認知症になっても大丈夫と考えていませんか?
確かに財産管理委任契約は家族信託と似た働きを持っており、認知症対策になっていると考えがちです。
たとえば、父の不動産を子が売却をするというケースで、父が子に売却手続等を「委任」することで、子が父の代わりに売買契約締結等の手続きを代理でできるようになります。これも財産管理委任契約の考え方です。
このように、財産管理を家族に委任すること(財産管理委任契約)はできます。しかし、家族信託と委任契約は全く別物です。
では、どのような点で別物なのでしょうか?
今回は委任と信託の違いをご紹介します!
目次
財産管理委任契約というのは、要は「財産のことはあなたに任せる!」「よし、わかった」と約束することです。
例えば、親が銀行での手続きを「代わりにやってくれ」と子どもに任せるのも、委任契約に基づくものですね。
契約ですから、民法の契約自由の原則のとおり、「当事者間の合意のみ」で成立します。どのような行為を委任するかも自由に決められます。
一応、任意後見との違いにも触れますが、後見制度は「本人の判断能力が衰えたら」スタートするので、元気なうちから効力のある委任契約とは大分役割が異なります。
また、委任契約の中で、生前・死後の財産の管理や処分を委任できます。
ここまで見てみると、「じゃあ委任契約をしておけば家族信託は不要?」とも思えますよね。
しかし、財産管理委任と家族信託との一番の違いは、本人に判断能力があることを前提とするかどうか?です。
法律上の観点で言えば、委任契約という性質上、委任者本人に「この人に法律行為を委任する」という意思が、常に存在することを前提としているのです。つまり、代理人が本人に代わって法律行為をするには、本人に判断能力があることが条件となります。
委任した時は元気だったんだ!と主張してもダメです。それが通ってしまうとなんでもありの世界になってしまいます。
手続き的な観点で言えば、たとえば親と子の間で、銀行手続きを行う委任契約、もしくは不動産を処分する委任契約を結んだとしましょう。
このとき、親子の間では委任契約が行われていますが、銀行口座や不動産の名義は以前と変わらず親のままです。
そのため、どちらの場合も本人確認・意思確認手続きは本人に対して求められます。
父に判断能力が十分あるうちは、本人の意思確認が可能ですが、認知症になってしまうと本人の意思確認をとることが不可能となります。
そのため、意思確認ができない以上、委任契約があったとしても子は名義変更を行うことも不動産を処をすることもできなくなってしまうのです。
では具体的に、委任と家族信託との違いをまとめてみましょう。
財産管理委任契約が法律上、「本人が判断能力が低下した後は使えない」契約である以上、当然認知症対策という意味では機能しないことがおわかりいただけたと思います。
もし、先ほどの例で、金融機関で手続きをする際に「委任」ではなく「家族信託」をしていれば、本人が認知症になっていても「受託者の意思」で手続きを進められるのです。
いかがでしょうか。委任契約と家族信託は全く別物だとおわかりいただけたでしょうか?
家族信託なら、自宅など不動産の売却時も、本人確認は受託者に対して行われます。
そして、委託者と受託者で定めた契約内容に従って、受託者の判断で法律行為を行うので、いざお金の引き出しや定期預金の解約、不動産の売却を行うときに、結局ご本人の登場が必要になるといった事態にはならないのです。
委任契約では将来の売却を委任していたとしても、いざ売却するときに本人が認知症になってしまっていてはアウトです。
司法書士が売却の意思確認をするのは、ご本人に対してです。不動産の名義も本人名義のままでしょうから、当然、本人確認ができません。
同じ理由で定期預金も凍結されてしまいます。解約するには、本人確認が必要となるからです。「委任状があるからウチは大丈夫」とはならないので、是非ご注意ください。
これまで見てきたように委任契約や、家族信託など、各法制度には微妙な違いがあります。興味がある方は、ぜひ一度わたしたちにご相談してみてください。
最後に今回のポイントをまとめますので、ご確認ください。
財産管理委任契約と家族信託は似て非なる制度
財産管理委任と家族信託との一番の違いは、本人に判断能力があることを前提とするかどうか?
財産管理委任契約は認知症対策にならないが、家族信託は認知症対策になる。
委任契約との違い以外にも、後見制度や遺言との違いもまとめた記事がありますので、そちらもどうぞ参考にしてください。
関連記事:どうして遺言書だけじゃダメなの?家族信託と何が違うのか
本記事を読んでも解決しないこと、ご不明点などありましたら、どうぞお気軽にメールや電話でご相談ください。