近年、認知症等の事情により自らお金・不動産等の財産管理が困難となってしまった場合に備え、家族に財産を管理してもらう「家族信託」が普及しています。
一方で、家族信託を行う場合には司法書士や弁護士などの法律系士業やコンサルティング会社によるサービスを利用する事が大多数です。
なぜなら、家族信託は普段法律に関わっていらっしゃらない方には少し理解しづらい仕組みだからです。
しかし、士業やコンサルティング会社などの専門家に依頼をすると相応の報酬がかかるものです。
可能であれば、自分で家族信託を行い少しでもかかる費用を削減したいと考える方も多いかもしれません。
この記事をお読みいただければ、自分で家族信託をする方法がわかりますので、是非最後までご覧ください。
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そもそも、専門家の関与なしに家族信託ができるのか?
問題があるのかを検討してみましょう。
大前提として、家族信託の手続きは、専門家に頼ま「なければならない」わけではありません。
士業や専門家は、あくまでも
「自分で専門的な判断ができないから」
「自分で手続きをする方法がわからないから」
「じっくり検討する時間がないから」
「不安だから誰かに後押ししてほしい」
などといった事情があるから、依頼しているということとなります。
あくまで契約や行為の当事者は皆さまご自身ですので、専門家を使わないで家族信託を行っても、法的には一切問題がないということを抑えておきましょう。
それでは、現実的には家族信託を専門家に頼まないで、自分でできるものなのでしょうか?
結論としては、いくつか抑えるべきポイントを抑えられれば、ご自身で行うことは可能であると思います。
細かい法律の解釈や条文等への理解を求めてしまうと難しさは増してしまいますが、シンプルに、「本人以外の家族が財産管理ができる状態を実現する」ことだけに狙いを定めれば、とても手に負えないというではありません。
このパートでは、具体的にどのように家族信託を進めていけばいいかを解説します。家族信託を行うには、以下のようなステップで進めるといいでしょう。
以下、解説いたします。
何よりもまず、生前対策を行う目的を明確にしましょう。
「何のために家族信託を行うのですか?」という質問に対してどのように回答するかという問題です。
この質問への答えはご家庭によって異なるかもしれません。
あるご家庭では、
「認知症になってしまった後に、自宅を売却できるようにするため」
となるでしょうし、あるご家庭では
「賃貸に出しているアパートの管理に限界を感じており、受託者という立場で子供たちが家賃を管理するために」
となるかもしれません。いずれにしても何のために行うのか?という目的を必ず最初に明確にすることが大切です。
生前対策の目的が明確になったら、本当に家族信託が最適な方法なのかを検討しましょう。
家族信託は、数ある選択肢の一つであり手段にすぎません。
他の選択肢である、「任意後見」「法定後見」「贈与」「代理」「遺言」「生命保険」等と比較し、評価をしましょう。
評価のポイントはいくつかあるとは思いますが、ざっくりメリットデメリットを整理して決めるといいでしょう。
この部分だけ、専門家の無料相談を活用することも非常に有効です。
なお、一つだけ覚えておいて頂きたいのは、「完璧な選択肢はない」ということです。どの選択をしても、(大なり小なり)あちらが立つがこちらは立たないという事になります。
ですので、多少のデメリットを気にしすぎないようにしましょう。
目的が決まり、家族信託が最適だと判断できたのであれば、家族の誰がどのような役割を担うのかを明確にしましょう。
と言っても、委託者兼受益者は自動的に決まる性質があります(今財産を持っている人が自動的になる)ので、主に決めるべきポイントは、財産を預かって管理・処分を行う「受託者」と、受託者の行為を監督する「信託監督人※設置するかどうかは任意」の二つの役割です。
また、その二つの役割を当初担っていた人が事故や病気等で続けられなくなった場合に備え、「第二受託者」と呼ばれる万が一のバトンタッチ役も設定するといいでしょう。
目的と役割が決まったら、「何を信託するか」を決めましょう。
家族信託は、必ずしも
「将来獲得するものを含む全ての財産を包括的に管理・処分を任せる」ということではありません。
「私が今持っている財産のうち、この不動産と預貯金●●円を任せる」
といったように個別具体的に任せる範囲を決めます。
イメージすると良いのは、銀行に預金を預けるシーンです。皆さんがどこの銀行にいくら預けるかは、皆様が特定して決めますよね。それと全く同じで、受託者に信託して管理処分をお願いするときも、「具体的にいくら」「アパートだけで自宅は任せない」という決め方となります。
もしも、どのぐらい信託すればいいか迷うのであれば、財産を持っている方の5〜10年先の生活をできるだけ具体的に想像してみてください。
・自宅や不動産を売る可能性があるか?
・介護や医療にどれぐらいかかるか?
・どれぐらいのお金を使い切りたいか?
・逆に、どれぐらいのお金を相続させたいか?
このような事を考えていくと、どの財産を受託者が管理できる状態が好ましいかがイメージできます。
さて、目的・役割・対象財産が決まったのでいよいよ具体的に契約書を作ります。契約書に最低限含めるべき内容は、
といった点です。このような事項を決めたうえで、ネットや書籍で家族信託の契約書を確認しましょう。
作成するのはWordやExcelなど、何でも良いです。
ある程度の内容に仕上がったら、この後のパートで解説する公証役場に相談をしましょう。
公証役場の公証人の方が、契約書の細部を仕上げてくれます。
併せて、信託財産中に不動産がある場合には不動産の管轄法務局に信託契約書の案文を持参して相談をしてみましょう。
無償で作り方を指南してくれますので便利です。
また、信託口口座を開設する場合は、案文が固まった時点で口座を作りたい金融機関に「信託口口座を作りたい」と相談してください。事前の相談なしでは作れないこともありますので留意が必要です。
ちなみに、家族信託の期限の設定ですが、当初の受益者が亡くなったときに終了する一代限りの家族信託がおすすめです。
理由は、二世代以上継続する「受益者連続型信託」は、一つ間違うと思いがけないタイミングで消滅してしまったり、多額の税金が課税されるリスクがありますので、必ず専門家のアドバイスのもとで行ってください。
ここまでくればあと一息です。契約書の案と登記をするための書類も仕上がってきたら、いよいよ具体的な手続きを進めていきます。
まずは、公証役場の予約を取りましょう。
出席する必要があるのは、「委託者」と「受託者」の二名です。必要な書類は公証役場によって若干の差異がありますが、印鑑証明書・実印・公証役場費用は必ず必要です。
その他は問い合わせをしましょう。
なお、公証役場で契約ができるのは平日のみで9時〜17時が基本です。
働かれている方は有給を取得する等の対応が必要です。
所要時間は約一時間。やることは、契約書の全文を読み上げ、間違いがないか確認をするというものです。
あまり小難しい法律のことは聞かれないことが多いですが、「何のためにやるか」「どんな財産を対象にするか」「誰に任せるか」などは聞かれることも多いですので、しっかりと準備しましょう。
また、公証役場では本人確認や意志の確認を行いますので、契約締結にはご自身の住所、氏名、生年月日が言えて、契約書の内容を理解できる程度の判断能力を有することが必要です。
関連記事:認知症の人でも家族信託を利用できる?判断能力の基準とは
公正証書での契約が完了したら、財産管理の準備に進みます。
信託財産中に不動産があれば登記申請、不動産がない場合で現金のみを信託するのであれば登記申請は飛ばして信託口口座の開設に進みます。
登記申請は、作成した登記書類に印鑑を押し、法務局と打ち合わせた通りに提出しましょう。問題が無ければ提出後1週間〜10日程度で完了します。
完了した後は、受託者名義の権利証(登記識別情報通知)が発行されますので必ず受け取るようにしてください。
また、登記が終わった後の「登記事項証明書」を取得して、正しく信託ができていることを確認しましょう。
お金を信託財産に含めている場合は金融機関で「信託口口座」という特殊な口座を作ります。
なぜなら、受託者は自分の財産と信託財産を分けて管理する必要があるからです。
この信託口座を作ることができる金融機関は非常に限られているため事前に金融機関に問い合わせることを忘れないで下さい。無事に信託口口座が開設できたら、その口座に信託した金額を委託者から送金してもらいましょう。
関連記事:家族信託で親の預金を管理する方法とは? 信託口口座とは何か?
公証役場との調整は大事な項目なので補足します。
原則として、信託契約は私文書でも成立します。
しかし、多くの場合家族信託契約は公正証書にて行います。
なぜなら、個人の財産にとって非常に重要な契約であるため、その契約の有効性を担保・証明する必要があるからです。
(例えば、不動産の売買シーンでは買主やローン機関に対して、信託口座開設のシーンでは金融機関に対して)
ですから、家族信託を行うときには基本的に公証役場にて契約を行うようにしてください。
上記の通り公正証書で契約することは非常に重要ですので、家族信託を計画する場合、最寄りの公証役場を検索しましょう。このサイトに一覧が出ています。基本的にはお近くがいいのですが、特に指定はありませんのでご都合が良い場所に相談をしてみてください。
先ほど解説した通り、公証役場はある程度のアドバイスをくれます。
ですので、「自分たちがどのような契約を行いたいか」という骨格が明確になっていれば、アドバイスや細部の仕上げはしてくれると考えて良いです。
まずは契約の骨格を明確にし公証役場に持ち込み、相談と契約内容の審査を受けるようにしてください。そうすれば、ご自分で細かい条項を作文する必要は無くなります。
契約の内容が固まったら、日程調整をして契約をしましょう。先に述べたとおりです。
さて、ここまで見てきたように、自分たちで家族信託の目的や方法をしっかりと確認した上で、公証役場や法務局への相談を活用すれば、家族信託を専門家に頼まずに行うことができます。
最後に、その場合のメリットとデメリットについて簡単に整理しておこうと思います。
なによりも、専門家の報酬がかからない点が大きなメリットです。専門家の報酬は組織ごとに異なりますが、概ね「信託対象財産の1%」程度がかかるものと思ってください。
例えば、5000万円の不動産と1000万円の預金を信託したら税別で最低60万円程度といった具合です。(なお、月額などで安くみえるサービスも見積もりを取得すればわかりますが、結果的には同じぐらいの価格帯になります。)
▼詳しくは、この動画でも解説していますので併せてご覧ください。
You Tubeで私たちの動画コンテンツを視聴していただければ、今後の受託者としての判断において適切な行動ができるようになります。
デメリットとしては、以下の二点に特に注意が必要です。
本記事に書かせていただきましたが、家族信託は手段です。
手段ということは、目的を実現する方法がいくつもあるということです。
他の手段の組み合わせでは実現できないのか?といった観点や、そもそもお客様のご家庭の事情を鑑みたときに見落としている論点がないのか?といった総合的なアドバイスを受ける機会は、ご自分で家族信託手続きを行うことで失うことになります。
もちろん、そのような総合的なアドバイスが一切不要であれば良いのですが、ご不安なお気持ちがあられるのであれば、再考の余地はあるかもしれません。
家族信託以外の選択肢を横断的に検討し、比較・シミュレーションした専門的アドバイスが得られないことが、最大のデメリットです。
専門家は、仕事として家族信託を日々行っています。
そのため、同じことでも経験の蓄積により、一般の皆様よりもより早く・的確に判断や事務を遂行することができます。
一方でお客様は、初めての契約、初めての登記、初めての…といったように全ての事が初めてとなります。よって、想定よりも時間も手間もかかってしまうことは自明です。
概ね、各項目で以下のような時間・期間が必要ではないかと思います。
・家族信託で良いかを選択する:1週間程度
・家族信託の骨格を決める:2~3日
・契約書を自作する:2~3日
・自作の契約書で公証役場と打合せ:2回程度
・契約書を基に法務局と相談:2回程度
・登記系書類の作成:1~2日
・契約書を基に金融機関と相談:OK出るまで1~2週間
・信託口口座開設:半日
・登記の完了確認:半日
もしも、日中にお仕事をなさっている方であれば時間の確保が非常に難しいかもしれませんよね。
上記のようなメリット・デメリットを踏まえ、ご自分で家族信託を行うことが本当にリーズナブルなのか、じっくり考えて結論を出すことが重要だと思います。
以上、家族信託をご自分で行うためにすべきことを解説いたしました。
この記事を参考にしていただければ、ご自分で家族信託を行うことができると思います。
しかし、本当に家族信託を自分たちで行うべきかは慎重にお考えいただき、もしもご不安が残るようであれば、専門家の活用も視野に入れてもいいかもしれません。
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