家族信託は、家族の誰かに財産の管理・処分権限を託しておくことで、将来的に認知症になってしまったとしても、銀行口座の凍結や不動産の売却制限を防ぐことのできる生前対策の一つです。
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「平成29年度高齢者白書」によると、2025年には65歳以上の方の5人に1人が認知症になると推計されています。認知症の主な要因は年齢であることから、超高齢社会で暮らす私たちにとって、他人ごとではなくなってきており、近年では相続対策だけではなく、生前の認知症対策の重要性が高まっています。
ただ、そんな認知症対策として有効な家族信託ですが、すでに認知症になってしまった方にとっては、必ずしも利用できるわけではないことに注意が必要です。
その家族信託利用の可否を判断をするにあたっては、「意思能力(判断能力)」というものを正しく理解する必要があります。
目次
認知症などで判断能力が低下してしまうと、法律の決まりで財産の管理処分などの法律行為が有効にできなくなってしまいます。
具体的には、銀行など金融機関窓口での預金の引き出し、定期預金の解約、大口の振り込みなどをしようと思っても、判断能力が十分でないと手続きをしてもらえません。また、不動産の売却などもやはり判断能力の低下がある場合、売買契約ができなくなるといったような事態が起こります。
家族信託も契約という法律行為であるため、判断能力を有しない場合には、有効にすることができません。そればかりか、遺言を書くことや自分が相続人となった場合の遺産分割協議への参加ですら、有効にすることができなくなってしまいます。
そうなってから、財産の管理処分を必要とする場合には「成年後見制度」を利用するしかないのですが、成年後見制度には「月3万〜6万円の出費」や「処分・管理権限の制限」など、デメリットが多いというのも事実です。
参考記事:成年後見について知っておくべき7つのこと
認知症と一口に言っても、軽度認知症(MCI)といって、本人や家族に物忘れの実感がありながら、日常生活に大きな支障が出ていないケースもあります。
このような状態ですと、契約の内容によっては十分理解することが可能であることから、法律上有効に契約を締結することができます。
そもそも民法第3条の2の趣旨は、判断能力が十分でない方が不利な契約に拘束されてしまうことから保護するという趣旨であるため、本人にとって不利な契約ではない家族信託で、かつ内容をちゃんと理解できているのであれば、将来万が一、契約の有効性を争うことになったとしても、効力に問題がないとされる可能性が非常に高いです。
では、一体誰が「この人は契約をちゃんと理解している。」「この契約は有効だ。」という判定をするのかといえば、最終的には裁判所の判断に委ねられます。しかし、それは訴訟で争った場合の話で、一次的には公証役場の公証人が判定します。家族信託は公証役場にて、公正証書で作成しますが、その際に公証人が「契約の内容を理解できているか?」についての判断をするのです。
そして、その判断の結果は、万が一将来、訴訟で争うことになったとしても、事実認定に大きく影響します。
公証人は主に、以下のような点について判断しています。
・氏名、住所、生年月日が正確に言えるか?
・契約内容を理解できているか?
・契約書に署名・捺印ができるか?
このあたりは、経験のある司法書士であれば、おおよそ公証人と同等の判断基準を持っており、事前の面談などで確認することができます。
ちなみに、要介護度と判断能力の有無には関係がありません。要介護認定を受けていたとしても契約内容を理解できていれば問題はありません。
施設に入居しているという事実や、病名などは、判断能力の判定に直接関係しているわけではないのです。
先述のとおり、本人が契約内容を理解できていることが前提となります。
家族信託は本来、財産を預ける本人と、財産を任される家族との契約ですので、当事者二人の合意があれば契約自体はすることが可能です。しかし、いくら公証役場で公証人によって問題なく家族信託の契約ができたとしても、家族全員の理解が得られていない状態で家族信託をすすめてしまうことは、非常に危険です。なぜなら、将来的に契約当時の判断能力を巡ってトラブルになる可能性が高いからです。
判断能力に問題がなくても、家族の理解を得て進める事は重要ですが、軽度認知症の方が家族信託を利用する場合には、特に慎重になる必要があります。
いくら軽度の認知症だといえども、あまりに複雑な契約内容では、公証人は「こんな複雑な契約内容を本当に理解できているのか?」と考える可能性は非常に高まります。
ですので、任せる財産の内容や、任せる人に与える権限など、契約内容はできるだけわかりやすいものにする必要があります。
家族信託契約は性質上どうしても内容が複雑になりがちです。ですので場合によっては、より内容を簡素化しやすい、例えば任意後見契約などで問題を解決できるかどうかを検討し、そちらを代替手段として選択するということも考えられます。
関連記事:高齢者の財産を守る制度3選「委任契約」「任意後見」「家族信託」
認知症の進行は早く、今はまだ元気だからといって、何もしなければいつまでたっても安心はできません。
確かに、先述のとおり軽度の認知症であれば家族信託や遺言、任意後見といった法律行為も有効にできる場合があります。しかし、まだ元気なうちにすることと比較すると、どうしても契約の内容や家族の納得感など、できることの種類や、実現までのハードルには大きな違いがでてしまいます。
元気なうちであれば、できることのオプションが増え、より家族の希望にあった生前対策の提案が可能になりますので、「今はまだいいかな?」と思わずに、できる限りお早めのご検討をおすすめします!