2020.05.13

投票を捏造した福祉施設の元施設長に罰金刑~意思能力の確認~

2019年4月に、特別養護老人ホームの元施設長が公職選挙法違反をしたとして、元施設長に対し福井地裁は罰金刑を言い渡しました。

この事件のポイントは3つあります。

事件のポイント ・重度認知症患者の意思確認

・平等な選挙権に基づく公平な選挙

・外部立会人の不在

疑惑の不在者投票


問題の不在者投票の流れはこうです。


まず、会場の食堂に重度認知症の入所者を集めます。そして、施設の職員が現職知事の写真を指差し「この人?」などと声をかけます。

そこで少しでもうなずいたら「原則知事に投票したい」という意思を確認したことにして、別の施設職員が代理で投票した、というのです。

このような態勢をとっていた元施設長は、福井県知事選で現職の知事を支持していました。実際、現職知事の奥さんが施設に来訪した際に、施設の職員を出迎えに活かせるなどして歓迎しています。

元施設長は組織ぐるみで、「選挙権の行使」としての意思決定を確認したのではなく、重度認知症患者に認められる選挙権を利用し、投票を偽造したのです。

検察側も公判で「元施設長は、支持候補への投票偽造がされている状況をよしとしていた」と指摘しています。

裁判所の判断


裁判所は、代理投票については「選挙人が自らの意思で候補者を選択したことが十分に伝わらなければ行えないと解すべきだ」とした上で、「外形的なうなずき」だけでは意思能力の確認はできないという結論を出し、罰金刑が言い渡されたのです。

成年後見人と受託者

元施設長側の主張


公判で、元施設長は、「少しでも反応があれば投票の意思はあったはずだ」と主張しましたが、認められませんでした。

裁判所の判断について弁護人は、「現行法ではどの程度の意思能力なら確認が十分なのか分からない。抽象的な規範に基づく判断だ」と批判しています。

制度上の問題点

重度認知症患者は、意思能力が著しく減退してる状態です。自分のした行為がどのような結果に繋がるのかを判断できません。

投票をするという行為は、選挙権の行使を通して政治に参加をする行為です。

ですが、重度認知症患者の方は、その行為によって、政治に参加をしているのかどうか、その候補者が当選するとどのような公約が果たされるのか、判断することもできないかもしれません。

だからと言って、禁治産者制度のように「選挙権も取り上げる」などとするのは明らかに「憲法違反」です。

今回の報道では、別施設の職員は「投票は基本的に自筆できる人に限り、重度認知症の人には投票させない」としているようですが、選挙権の行使を制限する権利は誰にもないはずです。言うまでもなく、選挙権は尊重されるべきです。


しかし現行法には意思能力に関する明確な規定がありません。実際のところ、施設ごとに投票の意思確認の方法は様々であり、元施設長の主張するような「少しでも反応があれば投票の意思ありとみなす」がまかり通ってしまいます。


なので、今回のような場合、施設の職員以外に、外部立会人の設置を義務化するべきとの声もあります。

各自治体の選挙管理委員会が元職員などを選出、不在者投票に立ち会わせる外部立会人の制度はありますが、設置は「努力義務」に留まっています。

設置の手続きも複雑であり、設置する施設はごく少数に限られます。

今回の不正が行われた福井県知事選で、外部立会人を設置したのはわずかに2割程度に留まっています。これでは、充分に機能しているとは言えないでしょう。

まとめ


投票の意思確認を職員に任せ、その方法や基準も施設ごとに異なるというのは制度上の欠陥といえます。

より多くの国民が自分の意思で投票に参加し、かつ公平性を保つためにも、重度認知症患者などの意思確認のルールを統一するべきではないでしょうか。

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