(引用:三井住友信託銀行「調査月報」)認知症の発症などで預金口座の名義人が適切な判断能力を失ってしまうと、金融機関はトラブル回避のために口座を凍結することができます。
三井住友信託銀行の調査によると、認知症により資産凍結してしまう可能性のある資産は、2020年時点で255兆円あり、今後 20 年間で金額的にはおよそ 1.4 倍にまで膨らむと推計しています。
米国では認知症の新薬が開発されていますが、その効果や価格についてはまだまだ明らかになっていない部分が多く、引き続き高齢者の財産管理には注意が必要です。
万が一、あなたの親の口座が凍結されると、「年金口座が凍結され、生活費が引き出せない。」「定期預金口座が凍結され、医療費・介護費などの予備資産が引き出せない。」などの問題が起きてしまいます。
そんなことにならないために、口座の凍結を回避する5つの方法について解説します!
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金融機関は口座名義人の判断能力が低下してしまった場合、主に下記のような理由で口座名義人の口座を凍結させます。
・親族による使い込みなどの相続トラブルを防ぐため
・口座名義人が詐欺、口座の不正使用などの犯罪に巻き込まれるリスクを防ぐため
金融機関が『判断能力の低下』を認めるのは、「口座名義人が窓口で手続きできない」、「氏名や生年月日を言えない」、「直筆で署名できない」場合だと言われています。
それでは、実際にどのような場面で口座凍結の判断をするのでしょうか?
「暗証番号を忘れた」「通帳やキャッシュカードを紛失した」
このような状況では金融機関窓口に行かなければなりません。
その際に、口座名義人の認知症について、金融機関に相談してしまう方が意外と多いため、口座が凍結されているようです。
金融機関窓口の方は、その情報を受けて口座名義人の意思確認を行います。
その際に判断能力の低下を認めた場合は、口座を凍結し、成年後見の利用を促します。
また、口座名義人が認知症となった場合に、他の親族の預金の使い込みを心配して、親族の誰かが金融機関に相談し、凍結してもらうというケースもあります。
定期預金などを解約して大きな金額を引き出そうとする場合、本人が金融機関窓口で手続きをする必要があります。
その手続きの中には、本人確認および意思の確認を含みますので、窓口でのやりとりでスムーズに受け答えできないなどの場合には、金融機関窓口の判断で口座が凍結されます。
本人がATMなどで暗証番号を何度も間違えたり、他の親族などによって不審な引き出しが繰り返された場合に、金融機関から本人に対して確認が入ることがあります。
その質疑応答の際、口座名義人本人の判断能力の低下が発覚し、口座を凍結することがあります。
口座名義人本人のキャッシュカードを預かり、暗証番号を知っておけば事実上口座からお金を引き出すことができます。
その場合、本人が関与する機会が減ることで、金融機関に認知症が発覚せず凍結対策になります。
本人のための出費が明白であれば、トラブルになる可能性も低いといえます。
一方で、やはり正規の手続きではない以上はリスクもあります。
例えば、そのような状況でキャッシュカードを紛失・破損してしまえば何もできなくなってしまいます。
また、引き出したお金の使い道を全て明確にしておくのは容易ではありません。
使途不明金があると、将来的な相続で相続人間のトラブルになってしまう可能性が高くなります。
【ワンポイント解説】
手軽に実行できるという意味ではメリットがありますが、このような事実上の対策は、急場しのぎと考えたほうが良さそうです。
現在では多くの金融機関が「代理人カード」を発行しています。
金融機関によってサービスの内容は異なりますが、本人以外の代理人によって預金を引き出すための、代理人用のキャッシュカードです。
このサービスは、金融機関の正規サービスであり、複数枚の代理人カードが発行できる場合も多いため、本人に替わって口座を管理する利便性に優れています。
しかし、代理人カードの利用はATMでの引き出しに限られている場合が大半ですので、定期預金の解約などには対応していません。
また、この代理人カードは原則、本人の意思能力が低下したあとは利用ができなくなりますので、やはり口座凍結対策として万全だとはいえません。
【ワンポイント解説】
代理人カードはできれば発行しておいたほうが良いですが、対策を万全にするには他の対策ともセットで考えるべきだといえます。
生前贈与は、本人の意思能力が十分なうちに財産を贈与する方法です。
贈与したあとは、財産に関する権利が移転するため、以後は本人の意志能力にかかわらず資産凍結という問題になりません。
金銭では、年間110万円までの贈与が非課税でできたり、住宅取得資金等の贈与の特例、教育費の贈与などの特例など、効率よく贈与するための特例が多数整備されています。
一方で、難点もあります。
税制の特例を利用するためには、税務調査に対する準備が不可欠です。
具体的には、その都度贈与契約書を作成したり、贈与税申告をすることが必要になります。
それから、自分の生活の面倒を見てもらうためのお金として贈与したのに、贈与を受けた人が「他のことに全部使ってなくなってしまった!」というトラブルも考えられます。
また経済的に見ても、贈与額が多額になったり不動産を贈与の対象とする場合を考えると、高額な贈与税課税がされる可能性が高く、合理的とはいえないケースが多いといえます。
【ワンポイント解説】
本人がまだまだお元気で長期的な対策が可能、かつ贈与の対象が金銭のみである場合には、一定の効果を発揮する方法だといえます。ただし、非課税特例(暦年贈与の特例等)も、将来的な改正が予定されており、今後の改正法案には注意が必要です。
近年では、そのデメリットが様々なシーンで指摘されている成年後見制度ですが、デメリットが特に指摘されているのは法定後見に関するものです。
成年後見には、法定後見の他に、『任意後見』という仕組みもあり、検討の余地があります。
任意後見制度とは、本人にまだ判断能力が十分にあるうちに、『信頼できる家族などとの間で、財産管理や身上監護を任せるための契約』です。
本人の判断能力が著しく低下した段階で、家庭裁判所へ後見監督人の選任の申立てをすると、任意後見人が開始されます。
そして任意後見が開始される前までは、『財産管理委任契約』をしておき、判断能力が低下する前から判断能力の低下後までの両方カバーする、いわゆる移行型任意後見契約という方法があります。
この方法ですと、任意後見が開始されてからであれば、問題なく後見人が口座名義人に代わって預金を管理できます。
しかし、本記事の執筆時点では、『任意後見開始「前」の財産管理人という立場』では、金融機関から本人に代わって手続きをすることを、認められるケースは少ないというのが実情です。
また、後見監督人には第三者専門家が就任しますので、法定後見ほどではないですが、その後見監督人報酬が継続的にかかるというデメリットもあります。
後見制度についてもっと詳しく知りたい方はこちら
関連記事:これだけ読めばわかる!成年後見制度の手続や費用と今後の展開
【ワンポイント解説】
任意後見は万が一判断能力が低下したときのための、『予備的な手段』として活用できるので非常におすすめです。一方で、利用の判断には高い専門性が要求されるため、必ず専門家への相談のもと行っていただきたいです。
家族信託は、信託契約によって財産を託された人が、あくまで”本人のため”に契約で定めた方法に従って財産を管理・処分できる契約です。
信託された財産については本人の判断能力に関わらず、家族が代わって管理できます。
信託財産を管理するための口座を改めて設けるので、凍結という問題になりません。
家族で最も柔軟に財産管理をすることができる方法で、金銭の他に株などの有価証券や不動産も信託することが可能なので、資産の凍結対策において高い効果を発揮します。
一方で、信託口座を年金の受け取り口座にできないなどの制限があるので、別途追加で金銭を信託する方法があります。
また、財産を任せられた人には強い権限が発生するので、トラブルにならないためには家族全員が良好な関係であることが重要です。
【ワンポイント解説】
近年では家族信託の利用を後押しするために金融機関の取り扱いも整備されてきており、『信頼して財産を任せられる人』がいる場合には、強くおすすめすることができます。
ただこちらも、利用の判断や家族信託の設計には高い専門性が要求されますので、専門家への相談のもと行ってください。
全国銀行協会は2021年2月18日、判断能力が低下している預金者本人に代わって、医療費など本人の利益が明らかな使途について親族が代わりに引き出せるとの考え方を示し、認知症の方が持つ預金の引き出しに関する指針を正式に発表しています。
参考:金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)
一方で、金融機関の現場からのお話を伺ったところ「後見制度の利用を原則としているので、例外的な扱いになる。まだ具体的な事例はない」とのことでしたので、実際の取り扱いにはまだまだ遠いようです。
家族でできる資産凍結対策は主に5つ
・キャッシュカード預かる
・金融機関の代理人カードの利用
・生前贈与
・任意後見
・家族信託
しかし、これらの制度には必ずそれぞれ良い面と悪い面があり、利用は慎重に検討する必要があります。一人で判断することをせずに、まずは専門家に無料相談をしてみることがおすすめです。
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