2021.02.19

<家族信託はもう不要!?認知症高齢者の預金が引き出しやすくなる!>


我が国の高齢化はますます進み、2025年には70歳以上が保有する金融資産が全体の4割に達すると言われています。



認知症患者の保有する金融資産の額は、将来的に200兆円を超えると試算されており、金融庁は2020年8月に銀行業界に対して顧客への対応の指針を作成するよう求めました。

それに伴い全国銀行協会は2021年2月18日、判断能力が低下している預金者本人に代わって、医療費など本人の利益が明らかな使途について親族が代わりに引き出せるとの考え方を示し、認知症患者が持つ預金の引き出しに関する指針を正式に発表しました。

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 なぜ必要?親族による預金引き出しの制度

この制度は、すでに認知機能が低下してしまった人やそのご家族にとってはとてもメリットのある制度です。

というのも、これまでは認知症などで預金者本人の判断能力が低下している場合、銀行では本人の意思確認ができないと判断し、預金の引き出し定期預金の解約お振り込みの手続きに応じることができませんでした。これが『銀行口座の凍結』と呼ばれるものです。たとえ、ご本人とご家族の方が同行して、事情を説明しても手続きをすることはできません。仮に、その使い道が治療費介護施設の入居費だとしても結果は変わらないのです。

介護をしていくうえで、この問題に直面してしまうと、金銭面で重大な窮地を招くことになります。例えば、介護費用を相続人が立て替えたとして、その金額を相続時に相続財産から差し引こうと思っても、当然には認められません。

ですので、介護費用を本人の財産から拠出できないというのは、非常に困るのです。



 預金引き出しのための成年後見利用のデメリット

上記のような『銀行口座の凍結』という問題に直面した場合に、「成年後見制度を利用すれば、預金の引き出しも定期預金の解約もできるので問題ない」という声を聞きますし、金融機関も後見制度の利用を勧めます。それに、成年後見制度の利用動機の第1位は圧倒的に“ 預金の管理・解約 ”が毎年多数を占めています。

しかし、これを簡単に考えると大変なことになってしまいます。

何故なら、成年後見は預金の引き出し“だけ”というような、スポット運用が認められておらず、すべての財産について、本人が亡くなるまで続くのです。

つまり、弁護士や社会福祉士などの専門職後見人が財産管理に関与し、後見人に対する報酬も本人が亡くなるまで発生し続けてしまいます。

これは、家族にとっては財産から後見人報酬が流出し続け、専門職の関与により、財産の主導権を手放すことを意味します。

関連記事:成年後見制度について知っておくべき7つのこと

こうした背景から、銀行などの金融機関に対しては、より柔軟な対応を求める声がありました。2025年には、個人金融資産のうちの4割を70歳以上が保有し、国内総生産(GDP)の約4割にあたる200兆円以上の資産を認知症患者が保有するようになる、との予測もあるので、対策が急がれています。

そこで、認知症により判断能力が低下してしまったとしても、「家族が必要な書類を集めれば預金を引き出せるようにしよう」という要請が出された訳です。



 結局、家族信託は不要になった?

しかし、このような新しい制度ができても、高齢者の方の生前対策は十分とは言えません。

それは、以下のような理由からです。

 使途が明確な引き出ししかできない

この新しい制度は、医療費や介護施設費など、本人の利益が明らかな使途である場合は、親族による預金の引き出しができるという制度ですので、普通に生活費や使途を限定しないで預金を使いたい場合にまで対応が予定されているものではありません。

あくまで、金融機関に対して「本人の利益が明らか」であることを証明できなければ、実現しないということです。

 積極的な運用ができるわけではない

投資信託の解約に関して、「預金よりも慎重な対応が必要」としながらも、限定的に対応が可能としています。

しかしながら、贈与や不動産の購入、財産の投機的な運用については対象にならないでしょう。それは本人の利益が明確ではないからです。ですので、「税対策」や「資産運用」に預金を引き出して使うという事は、できない可能性が高いということです。

 まだ、わからない部分も多く、手間もかかる

この制度は、まだ実務レベルでは稼働していないなので、「いつから使えるのか」や「使える要件」等、まだまだ実際の利用場面でどのように運用されるのか不明な部分も多いです。

更に、戸籍や請求書など、本人との関係性使途を明確にする書類を揃える必要があると考えられ、揃えるべき書類にも一定の厳格さが要求されるのではないかと予想され、手間も非常にかかるでしょう。

関連記事:民法改正で遺産分割協議に期限が!?
相続にかかわる民法改正も是非あわせてチェックしてみてください♪

 認知症の対策としては不十分

確かに、すでに認知症などで判断能力が低下してしまった人には、大変ありがたい制度です。

しかし、事前の準備が間に合うのであれば、家族信託や生前贈与など、よりメリットの大きい対策を検討しておいた方がいいでしょう。

理由として、この新しい制度では、医療費や介護費用など、緊急切迫した資金の拠出はできるかもしれません。しかし、認知症に対する備えは、それだけで十分とは言えないのです。「実家を売却して資金を捻出したい」という希望や、「孫への教育資金を贈与したい」、「資産の組み換えをして税負担を軽減したい」というような様々な想いの実現まではできませんし、預金の使い込み問題や、相続で揉めてしまう問題を回避することもできません。そういう場合に備えて、柔軟に財産の管理ができる『家族信託』や『生前贈与』を検討しておくことをおすすめします。

 家族信託などと組み合わせて考える

家族信託は、財産を家族に信託する制度です。信託をされたご家族は受託者として信託された財産を、契約内容に従って管理・処分できます。

受託者が“ 本人のため ”に、契約で定めた財産管理の方法に従って管理・処分できる仕組みで、受託者のできる事の範囲を予め自由に決めておけるのが最大のメリットです。

契約の内容について家族でしっかり話し合っておけば、財産の使い込み相続で揉めてしまうことも避けられます。さらに、家族信託には『遺言代用機能』があり、遺言のように財産の承継先を事前に定めることができます。

関連記事:5分で読める家族信託入門

生前の対策を考える場合には、『家族信託』と『預金の代理し引き出しの制度』は組み合わせて考えるべきでしょう。

家族に信託をしたい預金と、そうでない預金とを分けて考えて。

信託した預貯金は受託者に管理してもらい、そうでないほうの預金口座は、最悪の場合凍結してしまっても、この「親族による引き出しの制度」で、緊急切迫の出金には対応できます。

信託をした財産は受託者にしっかり管理してもらい、万が一意思能力が低下しても、家族で話し合って決めた目的のために使えます。



 まとめ

今回の、「親族による引き出しの制度」が整備されれば、いざという時の出金には対応できるようになりそうですが、それだけで認知症に伴う財産凍結を始めとした、全ての問題が解決する訳ではありません。

これから数年以内に、200兆円以上の資産が凍結のリスクにさらされる社会になります。

「こんなはずじゃなかった」となる前に、家族信託について検討をしてみてください。

「家族信託に取り組んで後悔した」という声は、リーガル・パートナーのお客様の中からはまだ聞いたことがありません。

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