認知症患者の預金を家族が引き出しやすくなるよう、
全国銀行協会は3月中に各銀行に通達を出すと令和2年3月10日の日本経済新聞で報道されました。
【参照記事:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56638410Q0A310C2EE9000/】
本通達は、引き出す人の家族関係が証明され、お金の使途が確認できれば、家族が本人の口座からお金を引き出せるよう、業界統一の対応を促すものです。
背景として高齢化に伴った認知症患者の増大があり、
認知症になってしまうことで「預金が引き出せなくなる」リスクから顧客を守るための動きであるといえます。
現在、判断能力が低下した預金者への対応は、各金融機関が現場レベルで判断しているのが実情です。
預金者の認知能力を見極めるのは医師でも非常に難しいものです。
不正な引き出しなどを警戒する金融機関としては、預金者が認知症になったと判断すると、
本人の資産を保護するとして口座からの引き出しを事実上凍結する場合があります。
しかし、これでは家族にとっては、
本人の施設入居費等など必要なお金を引き出せないといった事態に陥ってしまいます。
そこで、今回の発表によれば、
預金は本人の意思で引き出すのを原則としつつも、
認知症になってしまった方のご家族が預金の引き出しをできるようになるとのことです。
ただしその場合、
①戸籍抄本などで家族関係が証明できること
②施設や医療機関の請求書等で預金の使途
の確認できること等が条件となるようです。
金融庁によると、2014年時点で金融資産全体の7割を保有しているのは60歳以上の世帯でした。
認知症患者数の保有する金融資産額は30年には215兆円に達するといわれています。
こうした背景の中、金融機関は独自に取り組みを進めており、
事前に成年後見人の選任を勧めるほか、
本人に認知能力があるうちに代理人を指定しておき、
本人が来店できなくなっても預金が引き出せる制度を設けていたり、
事前の届出により家族が代理人として取引できるサービスを始める計画を進めています。
こうした動きは大変社会的な意義があり、
突然認知症になってしまった方の資産凍結のリスクの低減につながると思われます。
しかし、中にはこれだけでは解決されない問題もあります。
施設への入居費用は請求書が存在するのが通常ですし、
使途も明確なので、今回の実証実験のような手法で引き出せるでしょう。
しかし、これまで同様、
使途を限定しない預金の引き出し、ご家族への贈与や住宅資金等の援助、もしくは資産運用の為に預金を使いたいという本人の意思があったとしても、
認知症になってしまっては実現されません。
また、嫌な考えですが、
一部の親族が請求書等を偽造し、あたかも必要経費であるように見せ、不正に引き出すような行為が無いとも限りません。
金融機関の窓口の担当者さんは、発行された請求書の真贋を見極めることは困難でしょう。
つまり、自分の資産管理についての決定権を確保するには、
依然として事前に対策しておくことが非常に有効な手段であるといえます。
最近テレビでも紹介され注目されている「家族信託」であれば、
より柔軟にご本人の意思を実現させることができます。
上記のような資産凍結のリスクにも備えられるほか、
「贈与」や「運用」といった使途にも対応できます。
家族信託以外にも財産管理に使える制度としては、
法定後見、任意後見がありますが、それぞれメリット、デメリットが存在します。
したがって、ご自身に合った方法を選択することができるように、
今から検討しておくことをオススメします。